■『のび太の日本誕生』『のび太と夢幻三剣士』でも
続いては1989年公開の『映画ドラえもん のび太の日本誕生』。7万年前の後期更新世日本および中国大陸が舞台で、ヒカリ族と敵対するクラヤミ族との戦いを描いた作品だ。
タイムマシンで太古の日本を満喫しようと時空を超えるのび太らは、途中で謎の渦に出会う。これは「時空乱流」と呼ばれるブラックホールのようなものなのだが、それを語るドラえもんの説明が怖かった。
ドラえもんは、「神隠し」と呼ばれるものはこの時空乱流によるものだと説明し、実例を交えて人が突然消えることはあると力説。これに飲み込まれると永久に亜空間を漂うか、運が良ければどこかの出口から出られることもあるかもという説明は漠然としすぎていて、いつまでも頭に残ってしまう。
神隠し自体は都市伝説のようなものなのだが、もし子ども時代にこのドラえもんの話を聞いてしまったら、いつか突然自分や周りの人が消えてしまうかもと恐怖に震えることだろう。
また、同作では敵キャラクターも怖く、土偶のツチダマは土偶なのにしゃべるし攻撃もしてくる。またなんとかして壊して倒しても、またもとに戻って復活するのも倒しかたがわからず怖かった。
最後に紹介する1994年の『映画ドラえもん のび太と夢幻三剣士』は、のび太が「気ままに夢見る機」のゲームの中に入る夢世界が舞台。のび太としずかちゃんがメインであり、2人の関係性が深く描かれている。
作中では、なんとのび太としずかちゃんが敵の妖霊大帝オドロームの攻撃で死亡してしまうという表現も。攻撃を受けたのび太やしずかちゃんは黒いシルエットで描かれ、倒れたあとは着ていた甲冑が空になり中から砂のようなものが流れ出てくるというトラウマ表現が用いられた。
もちろん子ども向けアニメゆえにバッドエンドにはならない。2人は竜の谷で竜の汗を浴びていたため、その効力で1回だけ死んでも生き返ることができた。
しかしオドロームの部下で、任務に失敗したスパイドル将軍は同じ攻撃を受けてそのまま死んでしまっている。竜の汗がなければ2人の復活は叶わなかったと考えると恐ろしい。
このほかにも、絶体絶命のピンチで母親が気ままに夢見る機を偶然止めたため現実世界に戻ることができ、九死に一生を得ることができるなど、ゲームの世界ゆえにハラハラする展開が多い。
極めつけとしては、物語が解決し現実世界に帰ってきたラストシーン。元気よく登校していくのび太だが、学校がなぜか山の頂上にあり、普通に考えるとあまりに異質。夢と現実とが一体化したかのような不安感の漂う終わりかただった。
油断して見ていると意外と怖い『映画ドラえもん』の世界。こうしたトラウマシーンは、大人になっても消えないものだが、友情や冒険のワクワクだけでなく、こうした不穏な表現もまた子どもたちを惹きつける部分だろう。