■『崖の上のポニョ』は絵本のアニメ化企画からはじまっていた?
2008年公開の『崖の上のポニョ』は、当初中川李枝子氏の絵本『いやいやえん』(福音館書店)をアニメ化する企画だったものが、派生した作品である。
『ロマンアルバム 崖の上のポニョ』(徳間書店)によると、2004年公開の『ハウルの動く城』の反響から、次回作は“子ども向け”の作品にすることを提案したプロデューサーの鈴木敏夫氏。そこで題材として『いやいやえん』を選び、宮崎監督の作画でアニメ化することを作者の中川氏に交渉していたそうだ。
しかしその途中で、保育園の話を映画で作るよりも、実際に保育園を作りたくなってしまったという宮崎監督。そのあと宮崎監督は、スタジオジブリの社員専用の保育園である「3匹の熊の家」を建設し、『いやいやえん』のアニメ化という話から『崖の下の宗介』という物語にシフトチェンジすることに。その後、タイトル的に「下より上の方がいい」との判断から『崖の上のポニョ』に至ったそうだ。
保育園の話を作ろうとしたら、実際に保育園を作りたくなり、実現してしまった宮崎監督の行動力もさることながら、彼の動きを追随して適応していく鈴木氏の手腕にも驚かされるエピソードだった。
■『かぐや姫の物語』は『アルプスの少女ハイジ』へのオマージュ!?
2013年公開の『かぐや姫の物語』について、2013年9月17日に開催された中間報告会見で鈴木氏は本作にアニメ『アルプスの少女ハイジ』へのオマージュともいえるシーンが多数登場することを明かしている。
『アルプスの少女ハイジ』といえば、若き日の高畑監督が演出を務め、宮崎監督が画面構成などを担当した名作アニメだ。1974年の放送開始から全52話が放送された本作だが、意外にも原作は17ページ程度の物語だった。それを登場人物たちの心情を丁寧に描くことで内容を濃くしていったそうだが、高畑監督はそれと同じことを『かぐや姫の物語』で描こうとしていたという。
いわずもがな“日本最古の物語”である『竹取物語』を基盤に制作された『かぐや姫の物語』。原作自体はさほど長い物語ではないのだが、制作は難航し遅れていたという。
そんな状況のなか、かぐや姫の心情を物語に入れ込もうとしている高畑監督の意図を聞いた宮崎監督は、「『ハイジ』をやろうとしているんだ」と感じたそうだ。かつて名作でタッグを組んでいた2人だからこそ、お互いの意図することを汲み取ることができたのだろう。
『アルプスの少女ハイジ』のオマージュシーンが多数登場するという本作だが、かぐや姫が十二単を脱ぎながら走っていく名シーンは、まさにハイジが広大な自然のなかを走るシーンを彷彿とさせているように思う。
名作揃いのスタジオジブリ作品は、あらためて裏話を紐解いていくと、監督たちの並々ならぬこだわりのもと制作されていることがよくわかる。
効果音や、心情の描写など細部にわたり工夫が凝らされた作品たち。これらの裏話を知ったあと、新しい視点で作品たちを振り返ってみてはいかがだろうか。