■『漂流教室』の楳図かずお氏による童話『森の兄妹(ヘンゼルとグレーテル)』

 独特な画風で人気を博しているホラー漫画家・楳図かずお氏。とくに1972年から1974年にかけて『週刊少年サンデー』(小学館)で連載された『漂流教室』は、彼の代表作として知られている。

 そんな楳図氏、デビュー時の名義は「山路一雄」だったのだが、そのときの作品は童話『ヘンゼルとグレーテル』を『森の兄妹』のタイトルで漫画化したものだった。楳図氏が前半と後半を描き、当時親交のあった漫画家・水谷武子氏が中盤を描いた共作である。

 本作を描いたとき、まだ14歳の中学2年生だった楳図氏。中学生とは思えない画力の高さが垣間見え、細部まで描き込まれた背景や、おどろおどろしい見た目の魔法使いなど、のちの“楳図かずおワールド”を彷彿とさせる要素も随所に感じられる。

 一方、“恐怖マンガ”の先駆者として知られる楳図氏が、可愛い童話を描いていたことに驚く人も多い。14歳にしてすでに独特の世界観を確立していた彼の才能に対し、「腰を抜かしそうになった」と驚きを隠せないファンもいるようだ。

■『ミスター味っ子』の寺沢大介氏によるバトル漫画『WARASHI』

 寺沢大介氏の代表作といえば、1986年から1989年まで『週刊少年マガジン』(講談社)で連載されたグルメ漫画『ミスター味っ子』だろう。

 1987年にはアニメ化も実現した本作。料理にまつわる魅力的なエピソードはもちろん、作中では料理を食べた者が目から光線を出したり、宇宙まで飛んでいったりと、ギャグともとれる過剰なリアクションの演出が人気を博し、のちのグルメ漫画に大きな影響を与えたといわれている。

 そんな寺沢氏が『ミスター味っ子』の連載終了後、『将太の寿司』『喰いタン』などグルメをテーマとしたヒット作を描く前に、1990年から約1年間執筆したのがホラー漫画『WARASHI』だった。主人公の妖怪・ワラシが、ヒロインの小萩野あん子や彼女のクラスメイトである美童和彦とともに、妖怪が巻き起こす事件を解決していく物語である。

 本作は妖怪の描写に本格的なグロテスクさがあり、少年誌らしい“お色気描写”もあるのが特徴だ。さらにワラシとあん子、美童による恋の三角関係も見どころで、バトル、ホラー、恋愛と盛りだくさんな作品だったと思う。

 代表作の『ミスター味っ子』や『将太の寿司』とはイメージがかけ離れている『WARASHI』。寺沢氏の好きな作品として本作を挙げる人も多く、今もなお根強い人気を誇っているようだ。

 

 有名漫画家たちが意外なジャンルを描いた理由には、デビュー当時は違うものを描いていた、趣味が高じて別分野に挑戦した……など、さまざまなものがあった。

 得意ジャンル以外の作品でも、さすがの実力を見せてくれる有名漫画家たち。これを機会に彼らの別ジャンルの作品も読んで、それぞれの新しい魅力を発見してみてはいかがだろうか。

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