■二千年越しでも想いは届く「進撃の巨人」

 最後に、『進撃の巨人』の第1話「二千年後の君へ」を紹介しよう。

 第1話では、巨大な壁のなかで暮らす人類が突如巨人の襲撃を受け、世界の残酷さを見せつけられる……という、恐怖に満ちた内容が描かれていた。しかし、この時点では「二千年後の君へ」というタイトルに結びつく内容ではなく、タイトルの意味についてあまり深く考えた人は少なかったかもしれない。だが、このタイトルの意味は、物語が進んだ第122話にて明らかになるのだ。

 その第122話のタイトルは「二千年前の君から」。ここでは、すべての巨人の始まりである奴隷・ユミルが、王を暗殺の魔の手から庇ったことで命を落とし、座標の世界で再び奴隷のように一人で巨人を作り続ける様子が描かれる。ユミルはそんな自分を解放してくれる存在を、二千年も待ち続けていた。

 つまり、第1話「二千年後の君へ」のタイトルは、自分を解放してくれる存在・エレンに向けての言葉で、122話の「二千年前の君から」は、エレンがユミルからの言葉を二千年越しに受け取った、という驚愕の構成となっているということだ。

 第1話から第122話までは、実際の時間で10年の月日が流れている。『進撃の巨人』の複雑な物語のなかで、後付けでこじつけた伏線だとは到底考えにくく、作者の諫山創氏が連載当初から仕込んでいた伏線だということがわかる。

 ユミルがエレンへ向けたように、諫山氏が10年後の自分へ向けて、鮮やかに伏線の回収をさせるよう想いを込めたであろう、見事なタイトルである。

 

 アニメや漫画は、時にそのストーリーだけでなくタイトルにも深い意味が込められており、その意味に気づいた人々の心を揺さぶる。その巧妙で鮮やかな伏線回収にこれから何度驚かされることになるのかと思うと、これからもさまざまな作品の物語を追いかけずにはいられないというものだ。

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