歴史シミュレーション(SLG)といえば、いまも昔も光栄(現:コーエーテクモゲームス)を思い浮かべる人が多いはず。ちょっとソフトの値段が高いイメージもありますが、それを上回る面白さだけでなく、そのゲームの舞台となった「歴史」への学びを得られるという点は揺るぎのない評価だと思います。しかし、光栄の陰に隠れてしまったものの、それらに勝るとも劣らない面白い歴史SLGもありました。そのうちの1本が35年前となる1988年4月5日にナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)が発売した『独眼竜政宗』です。
■わかりやすいシンプルさで歴史SLGの楽しさが味わえた
『独眼竜政宗』は、その名の通り戦国時代に奥羽で活躍した戦国武将、伊達政宗を主人公とした戦略SLG。コーエーの作品のようにプレイする国を選ぶのではなく、プレイヤーは米沢を収める伊達政宗で固定。舞台も奥羽地方(現在の東北地方に相当)に限定されています。すでに発売されていた『信長の野望・全国版』(光栄)に比べるとローカルかつ狭い舞台ですが、パソコンゲームファンならいざしらず、ファミコンで初めて歴史SLGをプレイする人にとっては敵味方の情報を把握しやすい、ほどよい大きさだったと思います。
さらに初心者に優しいのがコマンドの数と内容です。歴史SLGの定石といえば内政して国の地盤を整え、兵士を集めて他国へ攻め入るというもの。
本作でもそれを踏襲していますが、コマンドも少なめで指示を出せるのは季節にあわせて1年に4回とシンプル。そのうえ、待ち時間なしにすぐに結果が出るというスピーディーさは、ゲームの止めどきを見失うほどのテンポの良さでした。私もこのテンポのよさに、ずるずると遊び続けていた覚えがあります。まあ、セーブするのにコマンド1回使ってしまってもったいない、というのもありましたが。
■漫才コンビのような政宗と小十郎のコミカルさにほっこり
プレイも雰囲気もシリアスでシビアになりがちな歴史SLGですが、登場する人物たちのかけあいがそれを緩和しているのも『独眼竜政宗』のポイント。コマンド選択時には小十郎(片倉小十郎景綱)がコマンドにどのような効果があるのかを説明しつつ、ときには政宗を叱るかのような気の置けない会話がなんともほっこりします。
かと思えば、他の戦国大名の当主たちの政宗を狙ったり監視したりするセリフも交じってきて、周囲は敵ばかりという情勢を思い出させつつも、親戚のおじさんのような気安さがある当主たちは、初心者に「難しそう」と思わせない配慮がなされています。
やけに個性的でキャラが立っている当主ばかりですが、残念なことに政宗もそうですが、当主たちにも配下の戦国武将がいないのです。もし『2』が出たならば戦国武将も実装して欲しかったところなのですが、それは実現しませんでした。シンプルさを優先したため、その要素は次に発売された『三国志 中原の覇者』へ譲ったのかもしれませんね。
■合戦シーンはグラフィカルで分かりやすく
戦国時代の花ともいえる合戦シーンも、数値や単一のユニットや数字だけでなく、旗(本陣みたいなもの)、騎馬、鉄砲、足軽の4タイプのグラフィックで描かれています。人数が増えると部隊も大きくなり、敵味方の戦力差を分かりやすく表現。国によってどの部隊が安く増やせるかという違いもあるので、どの国から攻めるのかという戦略的な視点も必要だったりします。
とはいえ、人数差だけで勝敗が決まるわけではなく、隊列や戦い方などでどうにかできるのもSLGの面白さであり、遊んでいくうちにそのコツをつかめるようになっています。その結果、合戦よりもその前準備がいかに大事で、つまり鉄砲と騎馬を厚くして訓練を重ねていけば勝てるがそれを実現するには金儲けが大事だ、という戦略SLGの基礎を筆者に叩き込んでくれたのは本作だといってもいいでしょう。
戦国時代を舞台に地域を統一するという目標は、ゲームだからこそ緩和されてますが本来はシビアな内容です。しかし、ユーモラスな会話と豊かな表情を見せる登場人物たちとの交流や、そして流鏑馬や金山探しという実益と気分転換を兼ねたミニゲームは、殺伐とした雰囲気になりがちな戦略SLGを初心者でも楽しくプレイできるよう努めた配慮であり、『独眼竜政宗』というゲームの本質ではないかと思います。
「光栄の歴史SLG」の陰に隠れてしまったファミコンの歴史SLGはいくつかありますが、本格的でありながらも初心者にやさしいSLGといえば『独眼竜政宗』を置いて他にはありません。筆者のように『独眼竜政宗』で歴史SLGの面白さを知った人も多いのではないかと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。