■突然の事故が視聴者に与えた衝撃
こう見ると少年向けの作品の方が最終回で主人公が死ぬ手法を取りがちのようだが、少女向けアニメにも主人公が最後に死ぬ作品があった。1982年に放送された『魔法のプリンセス ミンキーモモ』は、前期最終回で主人公・モモが魔法の力を失いそのまま交通事故で帰らぬ人となってしまう。
これまで魔法というファンタジーな概念が当たり前に登場していたのに、事故というあまりにも現実的な死因が、それも唐突に描かれたのだ。死という概念もまだわからないような視聴者の少女たちには衝撃的だったに違いない。
なおこの後モモは人間に生まれ変わり、地球の両親の本当の子どもとなるが、その後に続く後期アニメで描かれたモモと悪夢との戦いは、全て人間に転生したモモの見る夢だったということが語られる。
事故死に夢オチとは、かなり異質な作品であったが、制作に携わった首藤剛志氏は生前に連載していた「WEBアニメスタイル」でのコラムにて、打ち切りや放送の延長など紆余曲折があったうえでこのようなストーリー展開になったという裏話を語っており、当時の熱い現場の様子を伝えている。
さて、昔のアニメでは自己犠牲の精神が反映された、最終回で人間たちを守って死んでいくという主人公が少なくなかった。
たとえば日本で初めて放送されたアニメ『鉄腕アトム』では、最後にアトムが地球を救うために太陽に突入するというストーリーが描かれた。
その第193話「地球最大の冒険の巻」の展開はこうだ。太陽の核分裂によって地球上を異常気象が襲い、このままでは地球が滅んでしまうという危機の中、人間たちは宇宙へ避難した。そのスキに地球を乗っ取ろうと目論むロボットの独裁者・ナポリタンと戦ったアトムは、死の間際のナポリタンから太陽の爆発を抑える物質を受け取る。
しかし太陽に向かう際にロケットが壊れてしまい、アトムはそのまま自分で物質とともに、太陽に突入していくのだった。最後にアトムが地球を振り返りながら「地球はきれいだなあ」とつぶやくセリフがある。地球を守るために自らを犠牲にするアトムの姿に日本中の子どもたちが涙したに違いない。
また『妖怪人間ベム』でも、明文化こそされていないものの、最後はベム・ベラ・ベロら妖怪人間が死んだかような描かれ方をしている。
ずっと人間になりたいと願っていた彼らだったが、その方法が他者を犠牲にすることだと知り、人間を守るために人間になることをあきらめた3人。にもかかわらず、最後は警察によって彼らのいる屋敷に火が放たれてしまう。ラストシーンではベムの帽子、ベラのマント、ベロの靴の燃えカスが映されるというなんとも後味の悪い終わり方だ。
このほかロボットアニメなどでも、主人公が最終回で死んでしまう描写はあるが、どの作品でも残されたキャラクターの気持ちやその先の世界を想像させる悲しいラストになっている。やはり彼らには幸せになってほしかったと願ってしまうのは、ファンのエゴだろうか。