■そのスピード感はまさしくサンダーボルト「フルアーマー・ガンダムの驚異」
最後に紹介するのは『機動戦士ガンダム サンダーボルト』より、ジオン軍のリビング・デッド師団が、迫りくるガンダムと決死の戦いを繰り広げるシーンである。
リビング・デッド師団は戦場で手や足などを失った兵士で構成されるスナイパー部隊で、特殊な義肢を装着しMSと連結させることで思考によるMS操作を可能にする、リユース・P・デバイスの開発試験部隊でもある。
地球連邦のコロニーや戦艦の残骸で溢れるサンダーボルト宙域で、いち早くガンダムの接近に気づいたダリルが別のエリアに配置されているフィッシャーとショーンに警告する。2人がそれぞれガンダムに向けて発砲するも、ガンダムのスピードに合わせることができず外してしまい、射線によってショーンの機体の位置がばれてしまうのだ。
一瞬で戦闘不能にされてしまったショーンを見てフィッシャーが絶叫。「当たれええぇぇ!!!」と続けざまに撃つも、切り離したロケットブースターを囮に使われガンダムの位置を見失ってしまう。息を切らし、汗をかきながら索敵をし、すでに背後に回られていたことに気づいた時には何もかもが手遅れである。リックドムの脚部をビームサーベルで切り裂かれ機動力を失い、万事休すといったところでダリルの遠距離射撃が介入することでフィッシャーは九死に一生を得る。「逃げろダリル!スナイパーが敵に位置を曝したらおしまいだ!ガンダムに勝てっこねえ!」と警告するフィッシャーの絶叫は、ガンダムの脅威と戦場の緊迫感を一気に高める一言だ。
ショーンのザクIIを盾に一気に接近・爆発させての目くらましなど、続けざまの猛攻になすすべなく懐まで潜り込まれたダリルは、咄嗟にクラッカーを炸裂させることでなんとか撤退に成功した。
視聴者も思わず息を呑むスピード感と緊迫感溢れる演出は、戦場を支配するエースパイロットの圧倒的な恐怖感を表現した、まさしく名シーンといえるだろう。
ガンダムの圧倒的な力は、観ている視聴者に感動と興奮を与えてくれる。しかしそれを戦場で目の当たりにしている敵パイロットたちにしてみれば、その恐怖感は計り知れないものだろう。あくまで空想上の世界とはいえ、自分の人生が圧倒的な力の前に恐れおののくモブキャラと同様のものでないことを、心から祈るばかりである。