80年代の名作漫画といえば、筆者としては武論尊氏(原作)、原哲夫氏(作画)による『北斗の拳』に一番熱狂したかもしれない。そんな本作はもちろんバトルシーンが面白いのだが、実は涙腺崩壊してしまうエピソードも多く見られる。今回は、筆者が心を打たれた号泣必至の悲しいエピソードを紹介していこう。
■人を守るために命を投げ出した…仁星親子のシュウとシバ
まずは、仁星親子のシュウとシバだ。“南斗水鳥拳”の伝承者であるレイが死亡し、筆者も悲しみに明け暮れたものだが、そのあとすぐ登場したのが子どもたちに過酷な労働を強いる聖帝・サウザーだ。
“南斗聖拳最強の男”と呼ばれるサウザーに対して、抵抗する反乱軍のボスは“南斗白鷺拳”伝承者であるシュウ。彼は、かつて幼いケンシロウを救うために両目を自ら失った過去を持つ。ただ、ケンシロウは再会したシュウを最初は敵と思って殴り倒していたが……仕方ないとはいえ、かつての命の恩人になんてことを……!!
その後、シュウと打ち解けたケンシロウは反乱軍の仲間になり、ともにサウザーと戦うもまさかの敗戦。サウザーの圧倒的な強さと、ケンシロウが捕らえられるという驚愕の展開に言葉を失ったものだ。
そんな窮地の彼を救ったのが、シュウの息子・シバだった。まだ十代だろうか、シバは単身サウザー陣営に潜り込み、傷を負って動けないケンシロウを救い出す。
大柄なケンシロウを一人で運ぶのは大変だったろう。逃げる途中で聖帝部隊の追手に見つかってしまうのだが、なんとシバはケンシロウを救うためにダイナマイトを持って自爆する。そう、シバもシュウ同様、サウザーを倒して反乱軍や子どもたちを救えるのはケンシロウしかいないと悟っていたのだ。あのときのシバの微笑みとケンシロウの叫びと号泣……もはや悲しみしかない。
そして息子を失ったシュウは傷の癒えないケンシロウを隠してサウザーとの決戦に挑むが、子どもたちを人質に取られて動けない。太ももの健を切られ、何百キロもありそうな石積みのピラミッドの頂点部を担がされ、ピラミッドを登っていくシュウ。
ケンシロウが目覚めて駆けつけるも、時すでに遅し……。すでに頂点に達したシュウにサウザーは容赦ない矢を浴びせ、トドメは槍を投げて胸を貫いた。死の間際、シュウは一瞬だけ視力が回復し、ケンシロウの姿を見て涙を流していた。そして石を担いだまま力尽き、押しつぶされて絶命してしまう。どれだけ悲しい人生なのだシュウ……。
■水のために命をかけたタキと子どもを守るために体を張ったトヨ
次は、物語序盤でケンシロウと出会い、ともに旅をしていたバットの故郷の村の老婆トヨと少年タキのエピソードだ。
トヨは身よりのいない子どもたちを囲っており、生意気なバットもかつてはその一人だった。さすがのケンシロウも敬語で話すほどであり、彼女の人格者ぶりが見て取れる。
普段から子どもたちに分け与えるため、水や食事をほとんど口にしていなかったトヨ。心配した優しい少年・タキは隣町に水を求めて出かけるも、水の番人(悪党)に狙われ、ボウガンで胸を背後から貫かれてしまった。
あとから駆け付けたケンシロウの腕のなかで、タキは“トヨに水を飲ませたかった”と絶命してしまう。いや、なんでこんなにも良い子が先に死んじゃうんだ……! このタキの死でケンシロウが怒りから井戸の底の岩盤を拳で破壊し、湧き水を呼び起こすことに成功する。
しかし、この水が野盗のジャッカルにバレてしまい、ケンシロウが立ち去ったあとに村が襲われる。トヨは銃を手にして応戦するも、ジャッカルはダイナマイトを大量に体に巻き付けており、“撃ったら子どもたちもこなごなになる”とトヨを脅す。
子どもたちのために動けないトヨは、ジャッカルに銃を取り上げられ、剣で刺されてしまった。なんて悪党なんだコイツ! しかも、火を点けたダイナマイトを2人の子どもの背中に装着して放ち、どちらかしか助けられないように仕組んだりもしていた。まったくもって外道なのだが、トヨは身を挺して爆発から子どもを守るのだ。
駆け付けたケンシロウによって一味は村から去るのだが、トヨはすでに息も絶え絶え。最期の場面となったバットとの会話は泣ける。
バットが村を出たのは、身体の大きく育った自分がいなくなれば、そのぶんの食料や水がほかの子どもたちやトヨに回せるからという優しい理由だった。トヨはそのことを理解していたと伝えるのだ。バットは「おかあさ〜〜ん!!」と絶叫し、その声を聞いたトヨはニッコリ微笑んでこの世を去る。なんて悲しいんだ……許さないぞジャッカル!