■重いだけではない、人生の深さを教えてくれた『おジャ魔女』
『おジャ魔女どれみ』では基本的にはクラスメイトや周囲の人物の悩みをどれみたちが解決するという、1話から数話で完結する話が放送されるが、クラスメイトにも重い事情を持っている人は少なくはない。
なかでも視聴者にとって印象的だったのは不登校になってしまったクラスメイトの話だろう。長門かよこという少女は、メインキャラである瀬川おんぷと同じ日に転校してきたため、アイドルのおんぷと比べられ、同じ1組のクラスメイトに「2組にはおんぷちゃんが来たのに……」とガッカリされてしまう。
繊細な性格の彼女は、こういったクラスメイトの一言に傷つくことが重なって小学4年生にして不登校になってしまった。最終的にはクラスメイトと和解し登校できるようになるものの、無理して学校に行こうとして吐き気をもよおすシーンなどは信じられないほどにリアルな描写だった。
いじめ、不登校はなかなか子ども向け作品では触れづらいテーマであるように思う。しかしそこに切り込んでいったのが『おジャ魔女どれみ』という作品なのだ。
テレビシリーズではないが、OVA『おジャ魔女どれみナ・イ・ショ』では、友人の病死という重いテーマも扱った。
どれみが出会った和久のぞみ(のんちゃん)という少女は抗がん剤の影響で髪の毛がなく、どれみははじめ男の子と間違えてしまった。このほか、肌も真っ白でいかにもか弱そうな印象の少女だ。
のんちゃんは魔女に憧れており、それを知ったどれみはのんちゃんを7番目の魔女見習いにしてもらうべく女王様に働きかけるのだが、ついにそれが叶うというときに彼女は病状が悪化して亡くなってしまう。
魔法では病気は治せない、当たり前だが悲しい現実を突きつけられたような心地だった。
最後は長年のファンにとってかなり衝撃的だった展開を紹介したい。小説『おジャ魔女どれみ20's』では「無印」からのメインキャラの藤原はづきが結婚前に妊娠をしたというストーリーが描かれる。
相手は小学3年生の時点からはづきといい関係だった矢田まさる。高校卒業後、はづきはパリの音楽学校に留学、矢田はニューヨークでジャズ奏者として活動し、2人は遠距離恋愛を続けていた。しかし次にどれみたちに会ったとき、はづきのお腹は膨らんでいたのだ。
最終的にはなんとか両親への挨拶を終え結婚の許可を得た2人。いつか結婚するだろうと思っていたファンは少なくないだろうが、まさかの授かり婚になるとは誰もが想像しなかっただろう。
ここまで同作で描かれたさまざまなエピソードを列挙してきたが、本稿でもっとも伝えたいのは『おジャ魔女どれみ』は重さだけではなく、深さを感じる作品であるということだ。人の気持ちを考えるとはどういうことか、目の前にどれみのクラスメイトのような事情を持つ人がいたらどう接するか。子どもたちにはアニメを楽しみつつ、そういった道徳的な価値観を身につけてもらいたい。