■エリナへのいきなりのキス

 荒木飛呂彦氏による『ジョジョの奇妙な冒険』の第一部には、かなり衝撃的なシーンがある。

 それはディオがエリナに無理やりキスをするシーンだ。ディオはエリナがジョナサンのことを好きなことを知っていて、あえてファーストキスを奪った。しかもあろうことか同級生たちの見てる前で……。それを見た同級生は「そこにシビれる!あこがれるゥ!」という屈指の名言を口にするが、当時の読者たちは「ふざけるな!」という気持ちでいっぱいだったに違いない。

 ディオはジョナサンの愛犬を蹴りつけ、焼却炉に入れて焼き殺すなど、ジョナサンの嫌がることばかりをしてきた。それに加えて、淡い恋心を抱いているエリナまでも傷つける。キスされたエリナが泥水で口を洗うシーンにより、彼女の高潔さが際立つ演出になっているが、その分ディオの非紳士的な振る舞いが余計際立っている。

 ディオはプライドの固まりのようなキャラで、何でも自分の思い通りになるという傲慢さがある。それは、さきほど紹介した『北斗の拳』のシンと同じではないだろうか。そして、両者ともにそんなプライドを主人公によって打ち砕かれる展開は、やはり爽快感しかない。

■許嫁・ビビンバへのキス2連発

 ゆでたまごによる『キン肉マン』にも略奪のようなキスシーンがある。それが王位争奪戦でキン肉マンスーパー・フェニックスが、キン肉マンの婚約者であるビビンバにキスをした場面だ。

『キン肉マン』といえば、ギャグ要素が強くシリアスな展開は戦闘シーンのみで、恋愛のイメージはあまりないかもしれない。だがホルモン族のビビンバは純粋な気持ちでキン肉マンを追い求めていた女性で、それをフェニックスはいきなり横取りした。

「私は気の強い女は大好きだ」そう話して、ビビンバに無理やりキスをしたシーンは誰もが驚いたはず……。前フリもなくいきなりだったからだ。

 キン肉マンがいきなりの出来事に動揺しているのを見ても、フェニックスはビビンバを抱きかかえて離さず。そしてキン肉マンが弱気になっているところに追い討ちをかけるように再びキスをして、キン肉マンと同時に読者を煽ってくる。「二度もやった……」と、ついアムロ・レイのようなセリフが浮かんでしまうフェニックスの外道極まりない行為だが、そんな怒りが届くかのように、キン肉マンはフェニックスと戦う覚悟をする。このときは多くの少年読者がフェニックスを完膚なきまでにボコボコにしてくれ、と願ったに違いない。

 少年漫画であっても、女性を略奪する外道キャラは少なくない。いずれのキャラも、自身が行った悪行によって主人公の潜在能力を引き出してしまい、敗北してしまうのも面白いところだ。

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