■部に伝わる鬼の「セッキョー」を最後に

 続いては『週刊ヤングマガジン』(講談社)で連載されていた小林まこと氏による『柔道部物語』。こちらにも過ごしてきた日々の関係性が見える卒業シーンが登場する。

『柔道部物語』はズブの素人だった主人公の三五十五(さんごじゅうご)が柔道部を見学しにきたところ、新2年生による新入部員歓迎の伝統のしごき「セッキョー」で地獄を見るところから物語が始まる。このセッキョーの内容はウサギ跳びやアヒル歩き、熱唱しながらの空気イスなど厳しく強烈なもので、いくら部活動が縦社会とはいえ、今ではパワハラとも取られかねない行為だ。

 だがこれらスパルタ特訓は読者にも思い出深いもので、このセッキョーを、鷲尾や平尾、小柴ら先輩が卒業する際、後輩である三五らが、最後にもう一度やられるシーンがある。3年卒業時のセッキョーはほかでもない、彼らからの愛情表現のように感じた。

 また小柴が最後に部室を見ながら、昔を思い出しながら涙ぐむシーンも泣ける。数ページの回想の中には彼らがまだ幼い顔をしていた1年生の頃に「セッキョー」を受けるシーンもあり、柔道部で脈々と受け継がれてきた伝統と、多くの人の努力の3年間がこの部室に詰まっていると感じたものだ。

 ちばあきお氏の野球漫画『キャプテン』は、連載開始時の主人公であった谷口タカオが卒業したのちも、代々の野球部のキャプテンを主人公にして物語が続いた珍しい演出がとられた作品だ。

 上級生が引退するたびに新しいキャプテンが決まり、また次のキャプテンへつなぐまで一年間彼らががんばる姿は、つい応援したくなる。

 努力を重ねてキャプテンになった初代主人公の谷口、熱意はあるが短気な丸井、優れた野球センスを持つイガラシ、そしてお調子者キャラの近藤。「どのキャプテンが好きか」は、野球漫画ファンにとっては悩みのテーマだが、やはり好きなキャプテンの引退は寂しいものだ。

 スポーツ漫画における3年生の引退は、大会での負けとともに描かれるケースが多い。青春のきらめきは、もう二度と手に入らないからいっそう輝いて見えるのだろう。全力で頑張ってきた彼らの涙にこそ、我々もつい涙してしまう。

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