バトル漫画のキャラたちが構える「武器」は、最高にワクワクする要素だ。『ONE PIECE』のロロノア・ゾロに『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』の緋村剣心などなど、「漫画といえばこの刀!」とすぐに頭に浮かぶ有名なものも少なくないが、時折彼らの持つ刀剣に磨きをかける「刀鍛冶」が活躍するエピソードがある。
4月9日から放送となるアニメ『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』はまさにそうしたエピソードのひとつ。同作に登場する鍛冶師・鋼鐵塚蛍は、刀が折れるたびに炭治郎を殺しに来るほど刀に魂を持っていかれている人物で、鬼殺隊の剣士からも少々距離を置かれているところはあるものの、腕前は超一流。
前エピソードである『遊郭編』第1話では、刀を無くした炭治郎を鬼さながらのオーラをまとって追い回す鋼鐵塚の姿が、原作よりもボリュームを増して描かれた。『刀鍛冶の里編』ではどのように暴れまくるのか、彼の活躍が楽しみだという読者は多いのではないだろうか。
このように、主人公に新たな力を与え、物語を盛り上げる重要なキャラクターである「刀鍛冶」たち。しかし、どうにも彼らはどこかタガが外れているというか、とにかく常軌を逸した行動が目立つ。一般的に“職人”と言ったらこだわりが人一倍強いイメージを持たれるものだが、流石に伝説の名刀を打つ刀鍛冶ともなると、より癖の強い人物として描かれることが多いようだ。
■「金はこうするに限るな」『ブラック・ジャック』より馮二斉
手塚治虫氏の医療漫画『ブラック・ジャック』にも尋常ならざる刀鍛冶が登場するエピソードがある。
現代では、衛生上の理由で使い捨てが主流だが、ブラック・ジャックはメスを洗浄・消毒しながら使っていた。彼は常日頃からいつでも手術ができるように、どこへ行くにもメスを携帯していたが、そのメスを研いでいたのが馮二斉(ひょうじさい)なる男だった。
研ぎ料は一千万円。べらぼうに高い価格設定ではあるものの、ブラックジャックが「あなたは古今随一の刀鍛冶だ」「これで一千万は安い すばらしい輝きだ」と唸るほどの名刀匠なのだ。
馮二斉が登場するエピソードでよく語り草になるのが、「湯治場の二人」の中でのワンシーン。この話で馮仁斉は、ブラックジャックから受け取った研ぎ料一千万を、そのまま炉にくべ、「金はこうするに限るな これがわしのたのしみだ」と火を起こし、その炎でメスを打ち直す。
その真意は如何に? これ以上彼が語ることはなく、読者それぞれがその意味を想像しながら読むことができるエピソードだが、時折こうした「金」にまつわるセリフが登場するのが『ブラック・ジャック』。患者から膨大な手術代をもらい、その金が炎になり、再びメスになる。ブラックジャックのメスを研ぐのは、やはりこれだけの変わり者ではないと務まらないのかもしれない。