■実験体の殺人兵器として得た能力を人のために使う『スプリガン』御神苗優

 原作・たかしげ宙氏、作画・皆川亮二氏によるSFアクション漫画『スプリガン』(小学館)の主人公・御神苗優は、高校生ながらアーカムの工作員「スプリガン」の中でもトップクラスの実力者だ。しかも各国に名が知れ渡り、要注意人物としてマークされている。そんな御神苗が高校生にも関わらず、なぜそれほどの実力を持っているのかというと、過去に兵士になった経歴がその下地になっているからだ。

 御神苗は自ら志願して兵士になったわけではない。米軍の特殊実験部隊が計画したプロジェクトCOSMOSによって幼少期に誘拐され、無理やり兵士にさせられてしまったのだ。プロジェクトCOSMOSでは、子どもを誘拐して洗脳することで感情を消し去り、平然と人を殺して自らの死も恐れず指揮官には絶対服従する兵士とすることで、最強の部隊の完成を目指していた。

 部隊の育成は順調に進められたが、御神苗は任務時に殺された民間人を見て、両親の死を思い出し感情を取り戻してしまう。それによって指揮官に反旗を翻すと、部隊を自らの手で壊滅させてしまった。そして、駆けつけた朧によって救出され、普通の生活へと戻りゆっくりと洗脳が解かれていくことになった。

 6年もの間兵士として訓練されたスキルを活かすため、御神苗は自ら志願してスプリガンへ入隊。窮地に立たされると、昔の記憶が蘇り殺戮マシーンと化してしまうのを危惧していたが、それも強靭な精神力でコントロールできるようになっていった。そして、精神の成長とともに肉体の覚醒をした御神苗は、スプリガン最強で師匠でもある朧を破ることで、世界最強の称号を得ることになる。

 望んで得たものではないとはいえ、御神苗もまた、兵士としての経験を活かして、多くの人間を救うための力に変えていることが分かるだろう。

■ゲリラから殺し屋に……一貫して裏社会で生きる『サイコメトラーEIJI』カンナビス

 ここまでの2人は主人公だったが、悲惨な過去を持つ元傭兵キャラが敵として登場することも多々ある。その例のひとつが、原作・安童夕馬氏、作画・朝基まさし氏による『サイコメトラーEIJI』(講談社)の殺し屋・カンナビスだ。

 カンナビスはどんな困難な状況でも依頼を完遂することから、裏社会で名を轟かせていた。そんなカンナビスも昔は普通の日本人の少年だったのだが、両親と妹と一緒に乗っていたセスナ機が南米のジャングルに不時着したことで、人生が変わってしまったのだ。

 不時着した地域を支配していたゲリラに家族全員が人質にされ、両親は逃亡しようとして殺されると、幼かったカンナビスはゲリラの兵士として育てられることになった。カンナビスは生きるために傭兵となり、戦場で戦い続けることで着実に力をつけていった。しかしそれと同時に、両親を殺したゲリラたちに復讐する機会をも窺っていたのだ。

 やがてカンナビスは自らの手でゲリラを壊滅させるが、その時に生き別れた妹も殺してしまう。それからは、生と死の境に常に身を置いていなければ自分は生きられないと思い、世界屈指の危険地帯と呼ばれるコロンビアのボゴタへと身を置くことになり、その存在はすぐに裏社会に広まり、殺し屋として活動をするようになったのだ。

 カンナビスの実力は作中でも最高峰と呼べるもので、パートナーの幾島丈二とともに危険な依頼をいくつもこなしている。それまで敵なしだったエイジやトオルもカンナビスに立ち向かうが、実力差がありすぎて子ども扱いされてしまうほどだった。

 若くして傭兵となった過去を持つキャラクターは、それが自ら望んだものではなかったとしても、比類なき戦闘能力を獲得していることがほとんどだ。しかし、たとえば今回紹介した『シティーハンター』冴羽獠と『サイコメトラーEIJI』カンナビスは、傭兵となったきっかけそのものはそっくりであるにもかかわらず、悪を討つ主人公と敵役の殺し屋と、その様相は全く違ったものとなっている。

 このような対比を見ると、境遇によって人は変わってしまうということと、しかし最終的にどうあるかを決めるのは自分自身である、という2つの点について考えさせられてしまう。とはいえ、こうした過去を持つキャラクターたちが作品の中で異彩を放つ存在であることは間違いなく、その存在感に傭兵として培ったスキルが十分に活かされていることもまた事実なのだ。

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