『グラップラー刃牙』板垣恵介に『ザ・ファブル』南勝久も…体験したからこそ書けるリアリティ!? “驚きの経歴を持つ漫画家”3選の画像
少年チャンピオン・コミックス『グラップラー刃牙』第39巻(秋田書店)

 古今東西、さまざまな漫画が存在するが、それぞれの作品には作者の生きざまや価値観が知らず知らずのうちに反映されることがある。驚きの過去と、それゆえに納得の作風を持つ漫画家たちについて見ていこう。

■幼いころから抱き続けた“強さ”への探求心…板垣恵介

 登場人物たちが己の肉体のみを頼りに、さまざまな流派の技を駆使して戦う格闘漫画は、古くから根強い人気を誇るジャンルの一つ。その格闘漫画の金字塔とも呼べる一作こそ、1991年に『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載が始まった『グラップラー刃牙』だ。

 本作を手掛けた漫画家・板垣恵介氏は少年時代から“強さ”への憧れが強く、高校時代は“少林寺拳法”に励み、二段位を取得。そして、20歳で陸上自衛隊に入隊。なかでも特に苛烈であると有名な、“第1空挺団”に5年間在籍していた。

 在籍中には数々の過酷な訓練を体験した板垣氏だが、総重量30kgもの荷物を背負って富士山麓を100キロ歩き続ける訓練などをしていたとのこと。本人曰く、“人生で最もきつかった体験”として、その後の人生に強く根付いている。

 上記のような過酷な体験の合間にも“格闘技”への熱意は消えず、学生時代に習得した少林寺拳法から一変、アマチュアボクシングの世界に身を投じることとなる。国民体育大会にも出場するほどの実力者となったのだが、このボクサー時代に味わった手痛い“敗北”の経験も、のちの作品作りに大きな影響を与えているという。

 徹頭徹尾、“強さ”を追い求めたその生きざまは、彼の代名詞ともなった格闘漫画『刃牙』シリーズの原点であり、強さへの執着心や勝利、敗北の数々の実体験が、作品の骨子となっているといっても過言ではない。

 また、『刃牙』だけでなく、自衛隊時代の経験をもとにした漫画や、ボクサー時代の体験をつづった自叙伝なども別途発売されている。ここからも板垣氏の抱く“強さ”というものへの想いを、より一層深く知ることができるかもしれない。

■処女作は環状線を走り抜けた実体験から生まれた…南勝久

 2014年に『週刊ヤングマガジン』(講談社)にて連載が開始された『ザ・ファブル』は、のちに実写映画化もされた人気作品である。“殺さない殺し屋”を主人公としたシリアスとコミカルが入り混じった本作を手掛けたのは、漫画家の南勝久氏だ。

 南氏は1999年に、処女作となる漫画『ナニワトモアレ』で“第41回ちばてつや賞”の準大賞を受賞したことをきっかけに、漫画家デビューを果たした。

 この作品は1990年代前半の大阪を舞台に、大阪環状線を走っていた走り屋……すなわち“環状族”と呼ばれた人々に焦点を当てた作品だ。“走り屋”として生きる人々の抗争といったシリアスなシーンを描きつつ、随所に下ネタや駄洒落といったコミカルな要素をちりばめていくのは、『ザ・ファブル』の世界観にも通ずる部分だろう。

 それぞれのエピソードや走り屋としての描写はどれもリアリティに溢れているが、実は作者自身、実際に“環状族”として走り屋をしていた経験があり、実体験をもとに作品を作り上げていたそうだ。

 南氏は環状族時代に、スプリンタートレノ、カローラレビン、シルビアといった数々の車に乗っていた経験を持ち、なかでもシルビアは『ナニワトモアレ』の主人公の愛車モデルにも活用されている。

 “環状族”というなかなか我々が体験しない設定でありながら読者が強く作品に引き込まれる、南氏の実体験から生まれる説得力ある描写の数々が、作品に確かな“リアリティ”を与えているからだろう。

 自身の意外な体験を処女作の題材にし、見事にデビューをはたした、なんとも驚きの過去を持つ漫画家である。

  1. 1
  2. 2
  3. 3