■ハメを外しすぎたボケの代償はラオウからの強烈すぎるツッコミ!

 最後に紹介するのは、これまでの2人とはちょっと毛色の違う雑魚キャラだ。ラオウの部下・拳王軍は、拳王の権勢を笠に着て調子に乗りすぎている者が多いが、その中でもかなりのハジけっぷりと、その顛末が面白すぎて印象に残っている雑魚キャラがいる(単行本第12巻に登場)。

 そのキャラはラオウが居ないことをいいことに、制圧した村の女性を集め、自らは目隠しをして逃げ惑う女たちを捕まえるという悪ふざけをしていた。しかもその様子を見ていた他の雑魚キャラも、ラオウが消息を絶つ前にはこんなことはなかったと訴える村人に対し「なにが拳王だ いなくなりゃただのションベンよ!!」と豪語して暴虐の限りを尽くしていた。

 しかし、そんな無法地帯にラオウが静かに現れる。それを察知した多くの雑魚キャラたちは震え上がってしまうが、女たちを追い回していた男だけは目隠しをしていたために気付けなかった。そのまま追いかけっこを続けラオウにぶつかると、それを追い回していた女性の1人だと勝手に勘違いしてしまう。

「ん~やけに大がらな女だな え?」と大ボケをかましつつ「どんな顔してんのかな~」と目隠しを取ると、ついにそれがラオウだと気付くが時すでに遅し。

 無言のまま右手を大きく振り上げたラオウがその雑魚キャラの顔を叩くと、そのまま首が吹っ飛んでしまう。まるで吉本新喜劇のようなコテコテのボケとツッコミが成立しているのだが、その結果は『北斗の拳』ならではの凄惨なものになってしまっていて、そのギャップがまた一層の可笑しさを生み出している。

『北斗の拳』の雑魚キャラには極端なほど非道な人間が多いが、それを強調することによって、ケンシロウなど強者にやられるための前フリとして機能している。

 言ってみればドツキ漫才のようなもので、過剰なまでのボケに対して強烈なツッコミを食らうことで、やられ役としての役目を果たしているのだ。作中では名前すらない雑魚キャラなのに、何年経っても読者の印象に残っているそのインパクトの強さは、『北斗の拳』という作品の世界観を下支えする重要な要素であることは間違いない。

 実際にファンからの愛され度も半端なく、2020年には雑魚キャラをフィーチャーした展示会「北斗の拳・ザコたちの墓場展」も行われたほどなのだ。『北斗の拳』を読み直してみると、見落としていた雑魚キャラの魅力にあらためて気付くことができるかもしれない。

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