■主人公を食ってしまう最強の地味オジ!『ケンガンアシュラ』黒木玄斎VS十鬼蛇王馬

 原作:サンドロビッチ・ヤバ子氏、作画:だろめおん氏による『ケンガンアシュラ』(小学館)も、予測不能な決着が連続する作品である。

 主人公は謎の武術「二虎流」の使い手である十鬼蛇王馬(ときたおうま)。雇った闘技者の「仕合」の勝敗に巨額の利益を賭ける企業同士の代理戦争「拳願仕合」で、日本一の企業と闘技者を決める「拳願絶命トーナメント」に参加することになる。多種多様なバックボーンを持つライバルたちがひしめき合うトーナメントを王馬が勝ち上がっていくストーリーだと、読者の誰もが思っていたことだろう。

 そして、拳願絶命トーナメントでは、王馬の宿敵である桐生刹那や、拳願仕合史上最強とも称され「滅堂の牙」の異名を持つ加納アギトなど、錚々たる顔ぶれの猛者たちが王馬の前に立ちはだかる。

 そんな中、ふらりと登場したのが、沖縄空手をベースにした殺人拳法「怪腕流」の使い手である無名の闘技者・黒木玄斎である。いかつい外見ながらもいかにも噛ませ犬タイプで、すぐに敗退すると予想していた読者も多かっただろう。しかし、2回戦で桐生の「孤影流」を見切って倒すと、4回戦では優勝候補の加納を相手に互角以上の攻防を見せて勝利。まさかの決勝進出となり、王馬と対決することとなった。

 決勝戦ではさすがに主人公の王馬が勝つだろうと予想するも、これもまた意外な決着で、王馬の最大の技である「前借り」と「鬼鏖(きおう)」に対応した黒木が勝利を収めてしまった。

 苛烈を極める部位鍛錬の末に槍と化した四肢「魔槍」や、怪腕流の極意である先読みの極致「無動」といった技があるとはいえ、それほど派手なキャラクターとは言えない黒木が淡々と勝利を重ねていったのには驚きを禁じ得なかった。ここまで決着が予測できない格闘漫画も珍しいと言えるだろう。

 格闘漫画に没入することができるかどうかは、なんといっても戦いの中でどれだけハラハラドキドキできるかに掛かっている。どれだけ派手な戦いであっても、勝負の展開を誰もが予想できてしまっては、その面白さも半減してしまうだろう。だからこそ、読者の予想の裏をかき、あっと驚かせるような内容に仕上げるのが、作者の腕の見せどころだろう。

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