「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」という言葉がある。いくつかの解釈があるが、日本では“役目を終えた者は表舞台から降りる”という意味で用いられることが多い。
漫画やアニメの世界にも、やはり役目を終えて物語から姿を消す老兵たちがいる。彼らの結末は“死”であることが多いが、その姿は読者の記憶のなかで生き続ける。そこで今回は、カッコいい散り際を見せた老兵たちを紹介したい。
■綺麗事ではない最期『HUNTER×HUNTER』ネテロ会長
本名はアイザック=ネテロという、お茶目だが食えないところもあるこの老人。冨樫義博氏による『HUNTER×HUNTER』に登場するハンター協会の会長で、かつて人類最強とうたわれた念能力者だ。彼の死は、多くの読者に衝撃を与えた。
危険生物“キメラ=アント”の討伐をハンター協会に一任され、王・メルエムとの戦いに挑んだネテロ会長。圧倒的な力の差の前に左腕と右足を失い、奥の手である“零の掌”も通用しないと悟ったとき、彼は王を道連れに自爆する最期を選んだ。
それも、爆発の瞬間に毒をまき散らし、被毒者の肉体からさらに新たな毒を放出することで大量の連鎖被毒者を生み出すという、このうえなく非人道的な爆弾「貧者の薔薇(ミニチュアローズ)」で。“人間の底すらない悪意(進化)”の結晶と、ネテロ会長の命によって、人類は生きながらえた。
自身が負けても爆弾で倒すという結末は、武人としての誇りを汚しかねない。しかしハンター協会の会長として、また人類の存続を背負う者として、清濁併せ呑んだうえでの決断だったのだろう。
正義や正論による綺麗な死ではなく、敢えてこの最期。老練の兵でも、なかなかできる選択ではないと思う。
■本当の戦士とは…? 『ヴィンランド・サガ』アシェラッド
幸村誠氏の『ヴィンランド・サガ』に登場するアシェラッド。殺戮と略奪を繰り返すヴァイキング傭兵集団の長であり、主人公・トルフィンにとっては父トールズを殺した仇だ。
しかしアシェラッドの真の目的は、故郷ウェールズをヴァイキングの侵略から守ること。そのため、デンマーク王子・クヌートに王の才覚を見出した後は彼に忠誠を誓い、故郷の平和を託すため王位継承に尽力した。
しかし、クヌートの命を狙うスヴェン王がウェールズ侵攻を宣言し、「ウェールズかクヌートか選べ」とアシェラッドに選択を突きつける。そこで故郷も主も守るために彼が選んだのは、乱心したふりをして王を殺し、その罪を一人で被ることだった。クヌートもそれを察し、彼を“王殺しの大罪人”として、自身の手で止めを刺した。
震える手で剣を突き刺すクヌートに、アシェラッドは「人を刺したのは初めてか 王子よ」「……上出来だ」と言ってその場に倒れる。
兵は、王子が王の仇を討ったと大喝采。アシェラッドは自らの命と名誉をかけて、クヌートが王位を継ぐ舞台を用意したのだ。そして駆け寄ったトルフィンには、“いつまでも復讐にこだわらず先へ進め”と告げ、「本当の戦士になれ……」と、亡きトールズと同じ言葉を言い残した。
この死は作品内の歴史の転換点であり、トルフィンに“本当の戦士とは何か?”という問いを再び投げかける機会となる。物語のなかで大きな役割を持つ死だった。