■悲願の急成長を遂げた夢のような時間…『ブラック・ジャック』のピノコ
最後は、手塚治虫氏の名作『ブラック・ジャック』に登場する少女・ピノコを紹介したい。
彼女は双子の姉の体で畸形嚢腫として18年以上の年月を過ごし、ブラック・ジャックによって摘出された過去を持つ。腫瘍のなかでバラバラの状態だったピノコ。ブラック・ジャックは彼女を摘出したのち、人工の体を用いて“組み立て人間”として生かすことに成功した。
つらいリハビリを乗り越え、元気いっぱいの少女になったピノコは、実際は幼稚園児ほどの体の大きさではあるが自分を“年頃のレディ”だと思っており、ブラック・ジャックの奥さんだと言い張りながら彼を手厚く支える優秀な助手だ。
人工の体であることから成長できないピノコは、大人の女性に対して強い憧れを抱いていた。そんな彼女の希望が叶えられたのが、「人生という名のSL」というエピソードだ。
ブラック・ジャックが見ている夢の内容を描いたストーリーで、彼に縁のあるキャラクターが順々に登場していくなか、美人看護師に成長した21歳のピノコが登場していた。
双子として正常に成長していれば、彼女もきっと姉のような美しい姿に成長していただろうという想像を描いたものではあったが、ピノコの悲願でもある“年頃のレディ”の姿になり、ブラック・ジャックに寄り添う姿は大人の女性そのものだった。
ブラック・ジャックの奥さんになりたいと願っているピノコだが、このエピソードでは「私の奥さん」「それも最高の妻じゃないか」と言葉をかけているブラック・ジャックが描かれており、願ってもない幸せなシーンにファンは歓喜した。
病気でなければ美しい女性へと成長したであろうピノコの、悲願が叶った夢のような時間だったといえるだろう。
少女キャラたちが成長した姿は、あどけなさの残る幼い姿の彼女たちからは想像できないような大人の魅力にあふれていた。
闇の力を使用したり、夢のなかでの出来事だったりと幻として描かれることもあるが、時間を経て彼女たちが実際に成長を遂げたとき、かつてファンを魅了した大人の女性になるのかもしれないと思うと、ワクワクしてしまうのは筆者だけではないはずだ。