■偏屈少年の“呪い”はいつも空回り?『双一シリーズ』双一

 圧倒的な画力によって、ホラー漫画のなかに独特の妖しい美しさを描くのは、漫画家の伊藤潤二氏だ。伊藤氏の作品には数々の強烈なキャラクターが登場するが、なかでもどこかコミカルな立ち回りをするのが、『双一シリーズ』の主人公・双一である。

 双一は小学生だが、常に淀んだ眼差しを浮かべており、鉄分を摂るため(!?)口のなかで釘を頬張るなどの奇行も目立つ。ネガティブなもののプライドが非常に高く、なにかと他人に対しては強気に接しようとする。だが、それでいて気弱な部分もあり、あれこれと悪事を画策しては馬脚を露すこともしばしばだ。

 そんなどこか面倒な性格の彼だが、身につけた“呪い”の力は本物。人間の魂を人形に込めて操ったり、猫を怪物に変貌させたりと、自身をバカにした人間を恨み、あの手この手で復讐を企てていく。

 数々の恐ろしい現象を引き起こす双一だが、詰めの甘さからか最終的に自分が痛い目を見ることも少なくはない。適当にでっち上げたはずの怪物のような女が実在し喰われかけたり、怪物に変えたはずの猫の放電能力を制御できず落雷のような感電を受けて入院したり……と、パッとしない結果に終わることもしばしば。

 そもそも、これだけの“呪い”を操っていながら、それを行使する理由も実に子どもじみているものばかり。言ってしまえばそのほとんどが“逆恨み”によるものなのだから、双一の友人や家族、周囲の面々からすればたまったものではない。

 “呪い”というおぞましい力を操る一方で、幼さゆえの見栄や意地といった人間臭さが垣間見える、どこかギャグテイストな奇妙なキャラクターである。

 

 ホラー漫画のキャラクターはあの手この手で登場人物に襲い掛かり、それを見ている読者までをも震えあがらせる。だが一方で、おぞましい所業の随所に見えるちょっとした人間臭さに着目すると、彼らの見え方が変わってくるかもしれない。

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