楳図かずおの『赤んぼ少女』タマミ、伊藤潤二の『双一シリーズ』も…恐ろしいけどどこか可愛らしい“ホラー漫画の憎めないキャラ”3選の画像
『楳図かずお画業55th記念』少女フレンド/少年マガジンオリジナル版作品集第7 巻『赤んぼ少女』(講談社)

 ホラー漫画には不気味な設定、おぞましいディティールを持つキャラクターが数多く登場し、読者を恐怖へといざなう。しかし、彼らは怪物のような容姿でありながらも、どこか人間臭かったり、可愛らしい一面を覗かせる場面もある。そんなどこか憎み切れない、ホラー漫画に登場する名物キャラクターたちを見ていこう。

■小さな体に秘められた悲しみ…『赤んぼ少女』南条タマミ

 楳図かずお氏といえば、言わずと知れたホラー漫画界の巨匠であるが、そんな楳図氏が『週刊少女フレンド』(講談社)にて1967年から手掛けたホラー漫画が『赤んぼ少女』だ。乳児のまま成長しない怪物に襲われる少女の悲劇を描いた、サスペンスホラー作品である。

 本作に登場する怪物こそ、赤ん坊の姿のまま成長が止まった少女・南条タマミだ。赤ん坊の姿……とはいうものの、ざんばら髪に牙のような歯、魔女のように長く伸びた爪など、可愛らしさは皆無で、主人公・葉子をあの手この手でいじめ始める。

 その内容は非常に苛烈で、石油ランプを葉子の頭に乗せて歩かせたり、ギロチンで腕を切断しようとするなど、あきらかな殺意を持って葉子へと襲い掛かっていく。

 幼い姿とそこに宿った殺意のギャップが不気味なキャラクターなのだが、作中では彼女の意外な心境を垣間見ることができる。

 タマミは夜中に一人、化粧台に向かって化粧をするのだが、彼女は鏡のなかの自分の姿に一滴の涙をこぼす。どれだけ美しくなろうとしても、醜い姿の自分を変えることができない……という、彼女に宿った“乙女心”と、肉体と精神がずれていることへの“苦悩”を感じ取れるワンシーンだ。

 実はタマミが葉子を襲うのも、南条家に戻ってきた葉子に対し、自分には得ることのできない“美しさ”を見たことが大きな理由となっている。怪物のように見える一方、実はどうすることもできない自身の境遇に悲嘆し追い詰められてしまった、どこか人間臭い感情が見え隠れする怪物キャラクターである。

■“毒虫”のなかに確かに残っていた家族への思い…『毒虫小僧』毒虫小僧

 ホラー漫画界の巨匠と言えば、日野日出志氏も忘れてはいけない。グロテスクかつ奇妙な作風が特徴的な漫画家だが、日野氏が1975年に手掛けた作品こそ、『毒虫小僧』である。

 本作では家庭にも学校にも居場所がない小学5年生・日の本三平を主人公に、彼がひょんなことから“毒虫小僧”と呼ばれる存在に変貌していくさまを描いている。

 当初こそ変貌した自身の姿に困惑する三平ではあったが、のちに多くの人間に迫害され、自身に備わった力に気付くことで、人間への復讐を開始してしまう。

 毒虫小僧のその大きな目玉とずんぐりむっくりした体は、一見するとどこかマスコット的でもあり、恐怖とは直結しづらいディティールで描かれている。当初は三平の意識も色濃く残っていたことから、海の生物や小動物と戯れようとする可愛い一面も見受けられた。

 だが、人としての記憶が薄らいでいくなかで快楽殺人を繰り返すようになり、人間を脅かす怪物へと変貌していく。姿だけでなく、三平という少年の人間性が消失していく過程も、読者におぞましい恐怖を感じさせる要因の一つだ。

 一方で物語の終盤、生まれ育った家の匂いに誘われ、呼び覚まされた幼少期の記憶に涙する姿に、どこか考えさせられてしまう部分もある。人を殺したことはもちろん罪ではあるものの、彼はただ“居場所”を日々求めていた孤独な少年だっただけなのかもしれない。そして訪れる悲劇的なラストシーンについては、ぜひ本作で確認していただきたい。

 少年の心が宿ったどこか愛くるしい姿のその奥に、非情な運命のすれ違いを感じてしまうどうにもいたたまれないキャラクターである。

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