■偉大なる猫さんと家族の触れ合いを描いた動物少女漫画「トラジマのミーめ」
『ヤマト』や『ハーロック』では艦医の愛猫として、『999』では「ミーくんの命の館」の女主人など、さまざまな作品で登場する「ミーくん」は松本零士さんの飼い猫をモデルとしたキャラクターだ。そんなミーくんを主役にした少女漫画が『トラジマのミーめ』だ。
可愛いメス猫ミーくんは気が強いため「君」付けされ、無類の猫好きなお父さんをはじめ家族の愛情を受けながら、作中ではその14年間の生涯が綴られている。そんな本作で筆者が一番心に残っているのが、血統書付きの猫が車の前に飛び出し人間が急ブレーキをかけるのを楽しんでいたが、ある日とんでもない悲劇を生み出してしまうのだが……。やさしい絵柄ながら胸を締め付けられるエピソードが多く、読み終わったときに猫を抱きしめたくなる作品だ。
■独特な世界観を持つ「四畳半シリーズ」に分類される名作「螢の宿」
松本零士さんの作品には自伝的と目され、金なくモテない主人公がボロアパートで美女と暮らす「四畳半モノ」という独特のジャンルがあった。本シリーズには1970年から約4年間『別冊漫画アクション』で連載されていた『(元祖)大四畳半大物語』や、1974年に連載された『螢の宿』、1971年から『週刊少年マガジン』に掲載されていた『男おいどん』があげられる。
隠れた名作として知られる『螢の宿』は、舞台を明治時代へと移し、さびれた温泉宿で客にからだを売る女たちを描いた物語だ。私見になるが、松本零士さんは作品やデザインなどのモチーフに「蛍(螢)」を多く取り入れている。『999』の「螢の街」や『ハーロック』で補佐を務める有紀螢、オムニバス作品『螢の泣く島』、SFファンタジー『ホタルナ妖』、さらに隅田川に浮かぶ観光船「ホタルナ」のように、美しくも儚い蛍の姿をけな気な女性たちへと投影しているように感じた。
漫画の執筆以外にも、新たな挑戦を続けて来た松本零士さんが「星の海」に旅立たれたことは大変残念に思う。だが、残された膨大な漫画や作品は、これからも私たちファンを魅了し続けるのは間違いないだろう。