『銀河鉄道999』あまりにも膨大な作品群! 松本零士さんが遺した偉大なる“隠れた名作”たちの画像
松本零士著『君たちは夢をどうかなえるか』(PHP研究所)

 2月13日に漫画家・松本零士さんが急性心不全で亡くなられていたことが、同氏の公式ツイッターアカウントで翌週発表された。享年85歳。

 松本零士さんは1954年に高校1年生という若さながら、『蜜蜂の冒険』という昆虫擬人化漫画でデビューを果たす。それから70年にもおよぶ画業生活のなかで、『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』『宇宙海賊キャプテンハーロック』など数々の名作を生み出すと同時に、日本のアニメブームをもけん引してきた存在だった。

 だが、松本零士さんの名作はアニメ化作品だけにとどまらず、武骨でリアルな戦争もの、妖艶な女性たちが登場する成人向け、さらに少女漫画やファンタジーなど多岐に渡っているのだ。ここでは松本零士さんを偲びつつ、その膨大な仕事の中からいくつかの作品を取り上げてみたいと思う。

■戦場を舞台に兵士たちの執念と生きざまを描いた「ザ・コクピット」

 松本零士さんには、第二次世界大戦を舞台にした「戦場系」と呼ばれる読み切り短編の作品群が存在する。『週刊少年サンデー』に連載されていた『戦場まんがシリーズ』、『ビッグコミックオリジナル』の『ザ・コクピットシリーズ』、『ビッグコミック』の『HARD METAL』など、これらはタイトルや掲載誌を変えながら30年以上にわたり描き続けられてきた。

 なかでも、筆者の印象に残るのが『スタンレーの魔女』の物語だ。オンボロ飛行機に乗り込んだ主人公と6人の搭乗員は、被弾のため片方だけのエンジンとなった飛行機で魔の「スタンレー山脈」に挑まなくてはならない。主人公はファントム・F・ハーロックの自伝『スタンレーの魔女』を愛読し、自身もいつかスタンレーの魔女に勝つ(山を越える)ことを夢見ていたが、それゆえ仲間がとった行動に涙したファンも多いだろう。

 1982年に公開された劇場アニメ映画『わが青春のアルカディア』で、ハーロックⅠ世を演じた石原裕次郎さんのモノローグ「山が笑っていた」を後に聞いた筆者は、「あの自伝を書いた人物は……」とその関連性に気づくと同時に幼心にも驚いた。

 この「戦場系」と似たテイストの漫画として『戦場ロマン・シリーズ』があげられるが、こちらは『エリア88』などで知られる新谷かおる氏の作品。新谷氏は松本零士さんのもとでアシスタント経験があり、『ハーロック』に登場するヤッタラン副長は新谷氏がモデルだ。後に新谷氏の元アシスタント・島本和彦氏は同じく戦場漫画『BATTLEフィールド』シリーズを執筆。松本零士さんの「戦場作品」は、さまざまな形で連綿と受け継がれているのかもしれない。

■子どもたちが日曜日を楽しみにしていた理由は?「ちいさなマキ」

 1977年(昭和52年)1月9日から7月31日まで計30回、読売新聞日曜版に松本零士さんのSFファンタジー『ちいさなマキ』が連載されていた。小学生の少女マキが小さな宇宙人ミライの母親探しを手伝うため、自分の父親が作ったミクロ液を飲んで昆虫ほどの大きさとなり冒険する。

 筆者は新聞掲載時は未見だが、お馴染みとなった美麗な宇宙や地球の描画の他に、コミカルな昆虫たちが「零士メーター」とも呼ばれる松本零士さんお得意のメカを操作する姿は『不思議の国のアリス』を想起させた。何より1頁とはいえ、新聞紙面の約3分の2程度の大きさで、毎週フルカラー仕様の新作漫画が掲載されるというのはかなりの贅沢。日曜の朝、新聞を楽しみに待つ当時の子どもたちが目に浮かぶようだ。

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