“昨日の敵は今日の友”と言うが、少年漫画ではこのような展開がよく見られる。たとえば鳥山明の『ドラゴンボール』のベジータやピッコロ、冨樫義博による『幽☆遊☆白書』の飛影のように、敵だった相手が主人公を認めて打ち解けていく様子は、見ていて気持ちの良いものだ。
井上雄彦の『SLAM DUNK』でも、神奈川県地区大会で湘北高校と対戦した猛者たちが、のちに湘北の応援をする場面が見られる。そのなかでも、本作一の名試合と言っても過言ではない山王工業高校との試合で湘北に送られた熱い声援の数々を紹介したい。
■“ボス猿”と“野猿”のまさかの共闘! 魚住&清田
山王戦の偵察に来ていた神奈川の王者・海南大附属高校。そのなかでも1年の清田信長は、最初のうちはライバルである桜木花道や流川楓の冷やかしに精を出していた。
しかし後半、山王に20点以上のリードをされていた湘北が驚異の追い上げを見せ、その後また山王に突き放された場面。海南の面々が冷静に湘北の負けを予感するなか、ついに清田は「コラァーーッ このまま引き下がるのか 流川‼」「何とかしてみろ 赤毛猿‼」とハッパをかける側に回る。そして湘北が3人がかりで山王のエース・沢北栄治のゴールを阻止しようとした場面では、同じく応援に来ていた陵南高校・魚住純と声をそろえて「よォし つぶせ‼」と拳を握りしめた。
ともに桜木から“ボス猿”“野猿”と“猿くくり”で呼ばれる二人の、これが最初で最後の共闘だろう。
■赤木を自分と重ねて声援を送った魚住の思い
清田と違って、魚住はインターハイ出場を果たせなかった。しかし、それにもかかわらず、わざわざ神奈川から広島まで赴いて湘北の勝負を見守っている。
ライバルである湘北キャプテン・赤木剛憲が山王の河田雅史に委縮してしまったとき、魚住は板前の格好をしてコートに乱入し、大根のかつらむきをして「お前は鰈(かれい)だ」「泥にまみれろよ」と赤木に伝えた。
かつて自分が赤木との才能の差に気づいたとき、“チームのために体を張るのが自分の仕事だ”と考えて吹っ切れたように、赤木にも自分の役割を思い出させるきっかけを与えたのだ。警備員に連れられて席に戻った魚住はさすがに頬を赤らめていたが、そのときは恥ずかしさも感じないくらい、居ても立ってもいられなかったのだろう。
その後も赤木を見守る魚住。ついには赤木の姿を自分と重ね合わせ、恩師である田岡監督に言われた「むかっていけ‼」「そのデカい体はそのためにあるんだっ‼」という言葉を叫ぶ。ラスト1分を切った場面では「死守だっ‼」「シシューッ‼」と夢中で叫ぶ表情が印象的だった。