アムロとシャア——因縁の2人の最終決戦を描いた映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』。本日3月12日は、1988年の劇場公開からちょうど35年の記念日だ。幼少のころに見た時は激しい戦闘シーンに興奮しっぱなしだったが、年齢を重ねた今、改めて見るとつい目頭が熱くなってしまうシーンがいくつかある。今回は『逆襲のシャア』において必ず泣いてしまうシーンを3つ選出したので、紹介したいと思う。
■夢はいつしかこの手に届く「シャアを称える乗客たち」
『逆襲のシャア』でまず初めに涙腺を刺激されるシーンは、シャアが乗った電車で乗り合わせた乗客たちがシャアのために歌いだすシーンだ。
シャアが率いるネオ・ジオン軍が拠点とするコロニー・スイートウォーターでの移動中、一人の老婆によって一輪のバラがシャアのもとに届く。老婆が「ジーク・ジオン」と声を上げたことに他の乗客が呼応し、シャアを称えるように歌いだす名場面である。
そもそも『逆襲のシャア』におけるシャアの最大の目的は、小惑星アクシズを地球に落下させ、人類を地球に住めなくさせることである。物語序盤で対峙したアムロに「エゴだよそれは!」と言わしめた、なんとも自分本位な目的であることは否めない。
しかしシャアは、地球連邦政府によるスペースノイドの弾圧や、グリプス戦役時の政府内部の腐敗の様子をその目で見て、体験してきた人物である。人類の衰退の原因が地球に住む人々であると肌で感じたシャアが、父であるジオン・ズム・ダイクンの提唱してきたジオニズム思想に則って、全人類を宇宙に移民させ、地球を延命させようとすることに賛同する人がいるのもうなずける。
誰しも自分が生きている時代に、平和な世界が訪れてほしいと思うことだろう。そんな願いを一時代で叶えようと、多くの業を一人で背負い行動に移したのがシャアなのだ。そのあまりにもまっすぐな行動と、人類存亡のために多くの命を奪わんとするシャアの行動を称える人々という歪な構図を見ていると、なぜだか涙が出てきてしまう。人類が長く続けている戦いの歴史を止める方法もまた戦いなのであると、歳を重ねた今だからこそ深く考えさせられてしまうのである。
■因縁の2人の最後の一騎打ち「アムロVSシャア」
続いての思わず涙してしまうシーンは、因縁のアムロとシャアの最終対決のシーンだ。
『逆襲のシャア』はアニメ『機動戦士ガンダム』が放送されてからおよそ9年後に公開された。初代『ガンダム』にて幾度となく激しい戦いを繰り広げたアムロとシャア。当時のアムロはまだ男として頼りなく、ブライトに殴られた際には「親父にもぶたれたことないのに!」と、ガンダムファンでなくても知っている有名なセリフを口にしていた。
そんなアムロも、一年戦争最後のア・バオア・クーでの決戦ではシャアと相打ちになるまでの成長を見せ、『Z』ではもはや誰も手を出すことができない、「最強」のパイロットとしての印象を視聴者に植えつけたものだ。
そして『逆襲のシャア』で立派な大人に成長したアムロは、シャアにも引けを取らない大人の色気を放っている。頼れる立派な男に成長したアムロを見ただけで、感情がグッと高ぶった人も多かったのではないだろうか。
物語の終盤では、人々の感情を突き動かす名演説をするシャアと激しい舌戦を交わしながら圧巻の戦いを繰り広げる。
互いの武装を消耗し合い、最終的にモビルスーツ同士の肉弾戦に発展するが、アムロは見事な操縦技術でシャアを圧倒。「親父にもぶたれたことないのに!」と絶叫していたアムロがサザビーの頭部を繰り返し殴打し、モニターを破壊することでアムロの勝利を決定づけるものとなったのだ。
このアムロの素晴らしき成長ぶりが嬉しくもあり、同時に、長きに渡って続いた2人の戦いに決着がついてしまうことへの寂しさもあり、彼らを見守り歳を重ねてきたファンとしては思わず涙をこぼさずにはいられないのだ。