■衝撃のラストが忘れられない『天人唐草』山岸涼子

 1979年に『週刊少女コミック』(小学館)に掲載された短編漫画『天人唐草』は、山岸涼子氏の代表作だ。本作のテーマは「家族関係から発生するトラウマ」とも言われ、令和の現代における“毒親”が描かれた作品である。

 主人公・岡村響子は厳格な父親に厳しくしつけられていた。次第に響子は父から叱られることを恐れるようになり、内向的な性格へと育っていく。学生時代に恋を経験しても咎められ、ますます彼女の心は閉ざされることに……。

 時は流れ、社会人となっても響子のその様子は変わることはない。心の殻を破ってくれそうな男性が現れても、結局は父親の一言でなにも変えることができずに日々が過ぎていく。

 響子はのちに母親を、そして、父親を亡くす。しかし、父親の死の際、はじめて父親の男性としてのだらしのない一面を知ったことでギリギリのところで保たれていた響子の心が壊れてしまう。

 本作のラストは、心身のバランスを崩してしまい、フランス人形のような服装と濃い化粧の風貌となった響子が「ぎぇーーーっ」と奇声を発しながら歩いていくという衝撃的なシーンで締めくくられていた……。

 厳格すぎる父親に、なに1つ自由にさせてもらえなかった響子。現代の言葉で言えば“毒親”という言葉が合うのだろうが、子どもの個性をことごとく否定し押さえつける響子の父親が行った行為は、紛れもなく「虐待」に値するだろう。

 そして一方で、長年に渡り愛人を囲い、身勝手な理想を娘に押し付け続けていた響子の父。彼の裏の顔が描かれたことで、完璧ではない“人間臭い部分”を垣間見ることができ、より物語をリアルに感じられるのだと思う。

 

 複雑な親子関係を描いた作品を紹介してきたが、令和の現代においても親子関係の問題はあとを絶たない。とくに幼い子どもたちが命を落としてしまうようなつらいニュースを耳にすることもあり、「虐待」や「育児放棄」は社会問題になりつつあると言えるだろう。

 漫画で描かれる結末はフィクションであり脚色されたものではあるものの、現代の社会問題について考えさせられる作品たちだと思う。

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