少女漫画のなかには、思わずゾッとしてしまうような親子関係が描かれた作品たちがある。幼い子どもたちが過酷な運命を生き抜く姿に勇気をもらえる名作も多いのだが、彼らが直面している問題は、令和の現代においても通じるものがあるように思う。
今回は、少女漫画のなかから複雑な親子関係が描かれた作品たちを紹介していこう。
■愛情を求めて旅をする子どもたち『はみだしっ子』三原順
1975年から『花とゆめ』(白泉社)で連載された『はみだしっ子』は三原順氏の出世作である。本作は複雑な親子関係をもつ4人の子どもが描かれるのだが、少女漫画にしてはダークな内容で熱狂的な支持を得た。
“はみだしっ子”のリーダー的存在のサーザ・グレアム・ダルトンは、ピアニストの父に厳しく育てられたが、父から暴行を受けていた犬をかばって右目を失明してしまう。そのあと父の言葉によって叔母が自殺したことから彼へ強い拒絶を示すようになったグレアムは、そのまま家を出てしまうのだ。
グレアムのほかにも、小児麻痺を患って母親に見捨てられたリフェール・ステア (アンジー)や、母親の死後に失語症になったことで地下室へ幽閉されていたマイケル・トーマス(サーニン)、酒を飲んで暴れる父親から虐待を受けていたマックス・レイナー……と、いずれも親に捨てられる、もしくは自身で親を捨ててきた4人の子どもたちの姿が本作では丁寧に描かれている。
作中で描かれる「虐待」や「育児放棄」は、令和の現代にも通じるものがあるだろう。三原氏は本作のように社会問題や1人の人間を深く掘り下げていくことを得意とする漫画家といわれている。とくに『はみだしっ子』は40年以上も前の作品ではあるものの、現代に読んでも考えさせられることが多い名作ではないだろうか。
■娘を愛することができない母親『イグアナの娘』萩尾望都
“醜形恐怖症”をテーマにした『イグアナの娘』は、1992年に『プチフラワー』(小学館)で掲載された萩尾望都氏の短編作品だ。1996年に菅野美穂主演でドラマ化された際には大きな話題となったため、記憶に残っている人も多いだろう。
青島ゆりこは自分の長女・リカの姿が醜い「イグアナ」に見えてしまうという不思議な症状を持ち、どうしても愛せずにいた。リカとともに心中を図るなど精神的に不安定な様子を見せていたゆりこだが、のちに産まれたリカの妹・まみは可愛らしい人間に見えるため、彼女に愛情のすべてを注ぐようになっていく。
一方で、リカ自身も自分の姿がイグアナに見えるようになってしまい、内向的な性格に育ってしまう。しかし彼女自身はとても心優しい女の子で、学校で一目置かれるほどの秀才でもあった。
本作はファンタジー要素が強い作品で、リカの母・ゆりこの正体こそが実はイグアナだったという結末で終わる。ゆりこの夫・青島正則に命を救われたイグアナが記憶を封じ、人間の姿に化けていたのが彼女だったというのだ。
上記の作品に比べ、ファンタジー要素が強い作品ではあるものの、母親が兄弟のなかで愛情に差別をつけるというケースは令和の現代にも耳にすることはある。さまざまな理由はあれど、兄弟はともに育つ存在で、幼いながらも愛情に差があることなど容易に理解してしまうのが現実だ。
ゆりこのように“もともと人間ではなくイグアナだった”という事情は現実的ではないものの、“なぜか自分の子どもを可愛く思えない”という悩みから「育児放棄」などへ発展する現代の問題を想起させる作品だと思う。