■母親の帰りを待ち続ける女の子、好きな男性の家に忍び込む女性
また時代は遡り、1979年に放送されていた東京放送児童合唱団が歌う「泣いていた女の子」は、小さな女の子が帰ってこない母親を待ち続ける内容で、こちらも「怖いみんなのうた」として話題にあがる曲だ。
もの悲しいメロディの中、アップリケのついた服を着るような小さな女の子が家の中で母を待つでもなく、電話ボックスに入って電話をかけたり、夜になって星が出ている様子などを歌っている。アニメ映像はカラフルではあるのにどこかさみしさや寂寥感を感じる作りで、あまりにも不安な気持ちになる楽曲。
歌詞の中で母親は最後まで帰ってくることはなかったが、「みんなのうた」の映像の最後では、泣いていた女の子の笑顔のアップで終わる。本当に母親は帰ってきたのだろうか。そもそも母親がこんな小さな子どもを夜まで屋外でひとりにするなんて……といろいろと悪い想像をしてしまう。
また、1993年に放送された、当時大人気だったグラドル・細川ふみえの歌う「メロンの切り目」も怖い。
これは90年代の「萌え」を詰め込んだようないかにもアニメチックに描かれた映像が印象的な曲。内容は、若い女性が好きな男性の留守中に合鍵を使って家に入り、メロンに切り目を入れて冷蔵庫に入れたり、サラダを作ったりして自分がいた痕跡を残して部屋を出るというもの。
これらの行為を並べるだけでも、どうにも彼女の行為がストーカーにしか見えてならない。本当に恋人同士の間柄ならまだいいが、どうにかして彼の心に残りたいという歪んだ乙女心がかいま見えるのだ。
なおこの曲は細川の4枚目のシングル「ポチに八つ当り」のカップリング曲。こちらは、元彼の残していった犬にエサを与えなかったり、犬を殴るということを暗示させる歌詞など、動物虐待ともとれるような表現があるのが気にかかる曲で、筋肉少女帯の大槻ケンヂが作詞を手がけている。
1stシングル「スキスキスー」を小西康陽が作詞・作曲を手がけ、3rdシングル「だっこしてチョ」を電気グルーヴが作詞作曲を手がけるなど、エレポップアイドルとして大物アーティストから注目されていた細川ふみえ。「みんなのうた」になっていることは知らないまでも、この不穏な曲の存在を知っていたという人は多いかもしれない。
歌をよく聞いてみたり、アニメ映像を注視すると、実はここまでさまざまなジャンルの怖いものが並ぶ「みんなのうた」。その意味に気づいたとき、背筋がぞくっと凍るような怖さに襲われるだろう。