日本を代表するミステリー漫画『金田一少年の事件簿』。名探偵・金田一耕助を祖父に持つ主人公・金田一一(はじめ)が、幼なじみの七瀬美雪とともに遭遇する難事件を、天才的な頭脳と祖父譲りの推理力で解決していく、というのが基本的なストーリー。同作はこれまでに5代に渡って実写ドラマ化されているが、ひときわ視聴者に強烈なトラウマを植えつけたのが、堂本剛が金田一を演じた初代ドラマ『金田一少年の事件簿』ではないだろうか。
1995年に日本テレビ系の単発ドラマとしてスタートした堂本版『金田一』。演出は現在放送中のTBS系日曜劇場『Get Ready!』を手がける堤幸彦氏で、その後の大ヒット作『ケイゾク』『TRICK』などにも通じる不気味な雰囲気漂う作風が衝撃的だった。
スペシャルドラマの後、連続テレビドラマとして堂本版『金田一』は土曜21時の枠で2期に渡って放送。いずれも平均視聴率20%前半という高視聴率を記録したが、当時の少年少女たちはあまりの怖さに戦々恐々としながら見ていたのではないだろうか。
そこで今回は、当時の放送を子どものころに見ていた筆者が特に恐怖を感じた事件をいくつか振り返りたい。
■単発ドラマとして視聴者にインパクトを与えた「学園七不思議殺人事件」
まずは1995年4月に単発スペシャルとして描かれた「学園七不思議殺人事件」。同年7月には映画『学校の怪談』が公開されているが、ドラマ『金田一』もまた当時の子どもたちに「学校」の恐怖を与えた作品のひとつだろう。
この事件は、不動高校に伝わる学園七不思議の真相を突き止めたいというミステリー研究会に、金田一と美雪が参加するところからはじまる。そんな中、旧校舎の取り壊しが決まった不動高校に「放課後の魔術師」から取り壊しの中止を要求する脅迫状が送られるというエピソードだ。
旧校舎という舞台がホラー要素たっぷりで、単発ドラマとして「学園×ミステリー」という同作の雰囲気をあらわすのに適材だったのだろう。ドラマ版では原作の描写がより強調して演出されており、たとえば切れかけの蛍光灯や薄暗い廊下がお化け屋敷的に配置されている。不気味なBGMとそれらの演出により、事件が起きなくても恐怖を感じてしまう。
その中でも特にトラウマ必至のシーンが、第一の殺人。夜、ミステリー研究会の部長・桜樹マリコに呼び出された金田一が旧校舎に向かうと、開かずの生物室に明かりが。カメラが切り替わると、首を吊った桜樹の姿と、その手前に黒いローブをまとった人物が映るのだ。金田一たちと目が合ったその人物は、両手を大きく掲げゆっくりと扉を閉めていく。
この人物が顔を隠しているマスクに、ドラマ版にはトラウマ演出がつまっている。アニメ版では、黒っぽいマスクにカツラの長髪もカーキ色のため、全体的に落ち着いた色合いになっている。一方でドラマ版のマスクは、真っ白な肌に、真っ赤な長髪というスタイルに変更されており、より狂気を与える見た目に。一目見ただけで多くの視聴者が恐怖を感じただろう。
扉が閉まると、すぐに生物室まで全力で走り出した金田一の勇気に拍手を送りたい。筆者なら、あんな光景を目の当たりにしたら、助けを求めに戻ってしまいそうだ……。
■ドラマ第1話のエピソード「異人館村殺人事件」
続いてはドラマ第1話のエピソードにして、『金田一少年の事件簿』の中でも最多の被害者が出た「異人館村殺人事件」。殺害方法の残忍性が高く、トラウマ必至の事件とも言われている。
この事件は、金田一と美雪が教師・小田切とともに同級生・時田若葉の結婚式に招待されたことで、六角村を訪れたところからはじまる。結婚前夜、村のしきたりとなっている儀式を受けるために教会に閉じこもる若葉だったが……。
異人館村殺人事件の舞台となっている六角村自体が、外部から閉ざされた村のため、不気味な要素が多い。そのうえドラマ版では、館の中においても常に薄暗く演出されており、鎧やロウソクなどの小道具さえも、原作以上に不気味に見えてしまう。個人的には、若葉の結婚式を祝うためのパーティーに出てきた豚の頭部の丸焼きが忘れられない。
この事件のドラマ版では、刃物で切りつけられて血が噴き出す演出があるなど、グロテスクな方法で殺害された被害者たちが次々に映し出される。犯人を暴き出し、解決するまで非常に心が痛くなる事件だった。