■生き別れた兄への秘めた思い
ラオウの死後しばらくして、舞台は“修羅の国”に移る。そこは“修羅”と呼ばれる拳法家たちが殺し合い、生き残った力ある者が支配する国だった。そして、この国がラオウとトキ、さらにケンシロウの生まれ故郷であり、さらにラオウには生き別れた兄がいたことが明らかになる。
それによると、ケンシロウは北斗神拳の源流となった拳“北斗宗家”の血筋、ラオウとトキは宗家に仕える宿命を持つ血筋にあたる。軍事侵略により国が亡びる直前、ラオウとトキはまだ赤ん坊だったケンシロウを託され、国を出たのだった。
一方、国に残されたラオウとトキの兄・カイオウは、宗家の従者として屈辱を舐め、そのせいで母をも失った恨みを募らせる。そして“悪を象徴とする拳法”である北斗琉拳を極め、宗家を滅ぼさんとして修羅の国を作り上げた。その噂を聞いたラオウは一度カイオウに会いに行き、“このままこの国を修羅の国とするのなら、いずれ自分が兄から国を奪う”と宣言していた。
またケンシロウが北斗神拳の伝承者になったとき、ラオウはケンシロウにもこう伝えていた。“自分には生き別れた兄がいる。もしケンシロウが彼と拳を交えるときに自分が倒れていたら、自分が兄の哀しみを知っていたこと、その兄を誰よりも尊敬していたことを伝えてほしい。そしてそのときカイオウが歪んでいたら、その手で彼を殺してほしい。「カイオウはオレの心の中で いつまでも英雄でなくてはならないのだ‼」”と。
トキがラオウを思うようにラオウもまた尊敬する兄を思い続け、さらには故郷への思いも持っていたことが窺える。
本作の40周年記念プロジェクトの一環として、「愛をとりもどせ!」をテーマにした特設サイトが開設された。アニメのオープニング曲タイトルとして知られるこのテーマからも分かるとおり、『北斗の拳』は、愛に生き、愛に翻弄された男たちの物語と言えるだろう。そしてラオウもまたその一人であった。
今回挙げたエピソードはすべて、ラオウが捨てようとして捨てきれなかった“愛”にまつわる物語でもある。それが人々の胸を打ち、ラオウの魅力としてこの先も語り継がれていくのだろう。