『北斗の拳』暴君でも愛されるラオウの“あとから判明した泣かせるエピソード”3選「わが生涯に一片の悔いなし!!」の画像
『北斗の拳【究極版】』(徳間書店)10巻

 昭和の時代から平成、令和と長きにわたって親しまれてきた『北斗の拳』(原作・武論尊氏、作画・原哲夫氏)が、今年9月13日をもって、ついに連載開始40周年を迎える。

 本作を語るにあたって外せないのは、北斗四兄弟の長兄であり主人公・ケンシロウ最大のライバルでもある、ラオウの存在だろう。彼は恐怖と暴力で世界を支配する典型的な敵として登場したが、多くのファンから愛され続けるキャラでもある。

 その理由の一つには、あとから判明するラオウの“裏の顔”、それも読者が思わずほろりと来るような隠れたエピソードの数々が挙げられる。今回はそれらのエピソードを振り返りたいと思う。

■幼いころに交わした実弟・トキとの知られざる約束

 “北斗四兄弟”とは、子を授からなかった先代の北斗神拳伝承者・リュウケンが伝承者候補として集めた四人の弟子を指す。全員義兄弟とされていたが、のちに長兄・ラオウと次兄・トキは血のつながった実の兄弟だということが分かった。

 ラオウとトキの両親亡き後、二人のもとを訪れたリュウケン。いきなり二人を崖に落とすと、“はい上がって来たほうを養子にする”と言う。これに対しラオウは、気を失ったトキを抱えて片手で崖をはい上がり、“弟と一緒でなければ養子には行かぬ!”と啖呵を切った。

 二人ともリュウケンの養子になったしばらく後、実はトキも兄を超えるため北斗神拳を身に着けたいと思っていたことが分かる。ただ優しいだけだと思っていた弟が、自分と同じ熱い血を持っていると知ったラオウは、「いいかトキ もし オレが道を誤ったときは」「おまえの手で オレの拳を封じてくれ‼」とトキに伝えた。

 のちにトキが病をおしてまでラオウを倒すことに使命感を抱いていたのは、このときの約束を果たすためだったのだ。それまでラオウが見せてきた“非情な暴君”の顔に隠れた、弟の理想であり続けた強い兄の顔が垣間見えるエピソードである。トキとの最後の戦いの前、幼いころに二人でつけた背比べの跡をなでるラオウの表情が、なんとも切ない。

■死してまで…愛する人のための選択

 愛を失い、戦いのなかで生まれる真の哀しみを背負ったケンシロウは、やがて北斗神拳の究極奥義“無想転生”を会得する。そんなケンシロウに恐怖心を抱いたラオウは、恐怖を克服するため、最愛の女性であるユリアを殺して自身も哀しみを背負うことにした。ラオウいわく、“愛を捨てること”が自身に無想転生を吹き込む理由となったのだ。

 しかし実のところ、ユリアは死んではいなかった。彼女がトキと同じ病におかされ余命数カ月だと知ったラオウは、殺す代わりに仮死状態になる秘孔を突き、その余命を数年にまで延ばした。つまりラオウの無想転生は、“愛を捨てた”ことではなく、むしろ“愛を心に刻み付ける”ことでなし得たのだった。

 ラオウはその事実を「愛を帯るなど わが拳には恥辱!!」として最後まで認めようとしなかったが、息を吹き返したユリアのもとへケンシロウを引き合わせ「残る余生 ケンシロウとふたり 静かに幸せに暮せい」と送り出し、自ら命を絶った。

 トキの隣に葬られたラオウの墓前にて、ユリアは“ラオウは恐怖により暴力の荒野を統治するよりほかなかったが、その後は自分が愛を持つ者に倒されとってかわられることを望んでいたのでは……”と振り返っている。きっとラオウはそれも認めないだろうが、多くのファンはユリアと同じことを考えただろう。

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