■身体がない“幽霊”までも…
人間と多少勝手が違うとはいえ、ミイラも宇宙人も“身体”があっただけマシかもしれない。秋田文庫版第5巻収録「雪の夜ばなし」では、事故で身体を失った“幽霊”の患者が登場する。
ある雪の日、“母の手術をお願いしたい”とブラック・ジャックを訪ねてきた若い兄妹。どこからどう見ても患者の姿はないのだが、二人は何もいない空間に母がいると訴える。ブラック・ジャックは兄妹の精神状態を疑いつつも、しかたがないので彼らの“母親”を手術することに。
とはいえ見えないものは見えないので、診察の時点で「そこには何もありません」「へんなところばかりさわって……」と兄妹に怒られてしまう。どうにか“手探り”で手術を終えた彼は、思わず「手術ごっこは気がつかれるわい………」とこぼしていた。
しかし患者が“入院”することになったあと、彼女を寝かせた(つまり兄妹以外には空っぽにしか見えない)ベッドを誰にも使わせなかったブラック・ジャック。患者を尊重する姿勢はさすがである。
■“故障”ではなく“病気”と判断…コンピューターの手術
秋田文庫版第1巻収録の「U-18は知っていた」では、とある病院を司るスーパーコンピューター“U-18”がブラック・ジャックの患者となった。
病院の管理や運営はもちろん、患者の診察や手術までこなすU-18は、ある日自分が病気になったと言い始める。コントロールセンターの人間に機械だから病気ではなく故障だと言われても、“自分は機械ではなく医師だ”と主張してゆずらない。
そんなわけで技師ではなくブラック・ジャックが修理……もとい治療をすることになるのだが、終始U-18を“患者”、そして“医師”として扱う彼の態度が強く印象に残った。
医療における人工知能というテーマが未来を先取りしている感もあって、作者の発想力の豊かさにあらためて驚かされる回でもある。
ミイラに宇宙人、幽霊とさまざまな存在さえ救ってしまうブラック・ジャック。人間相手のエピソードでも手術自体はトンデモなものが多くあり、彼にはいつも驚かされてばかりいる。