『北斗の拳』における名勝負と言えば、ケンシロウとラオウの対決を挙げる人が多いだろう。しかし、その対決の前にケンシロウと南斗最後の将を再会させるべく、ラオウの進撃を必死で食い止めようとした者たちがいた。彼らは「南斗五車星」。
南斗六聖拳に比べて注目度は低かったものの、その個性的なキャラクターは今読み返してみても突出したインパクトがある。言い換えると“クセが強い”のだ。今回はそんな南斗五車星の中から「風のヒューイ」「雲のジュウザ」「山のフドウ」について語っていきたい。
■伝説のロックバンドボーカルを彷彿させる「風のヒューイ」
風のヒューイは「風の旅団」のリーダーであり、風の中に真空を走らせ鋼鉄をも断ち割る拳の使い手だ。拳王軍の敵を切り刻んだ姿は南斗水鳥拳のレイを思わせる。しかし、登場時のインパクトの割にあまりにあっけない最期だったため、“噛ませ犬”キャラという不名誉な称号でも知られている。
そんなヒューイ、どこかで見覚えのある顔立ちだと思ったら、日本を代表する伝説のロックバンド「X JAPAN」のボーカル・TOSHI(現・Toshl)のかつての姿に似ている。仲間の肩に片脚を乗せ、拳を握って「天を握るは北斗にあらず!!」「天を平定するはわれらが南斗六聖拳最後の将!!」とラオウに口上を述べるシーンは、ステージ上でスピーカーに立て膝をするTOSHIを彷彿とさせるのだ。
しかし、ヒューイはすぐにその短い命を散らすことになる。“バシュア”という擬音語とともにジャンプし、ラオウに攻撃を仕掛けるヒューイ。これが、“対戦相手に上から襲いかかってやられるフラグ”そのままに、死の特攻となってしまった。「そんなやわな拳ではこの体に傷ひとつつけることはできぬ!!」とラオウのワンパンでKO。登場後、数ページで即退場という惨敗劇だった。
ちなみに『北斗の拳』登場キャラの技の多くには名前がついているが、ヒューイの技には名前すらなかった。ザコ敵でも「跳刀地背拳」など仰々しい技名をつけてもらっているのに、なんとも気の毒すぎるキャラである。
■体に油を塗ってラオウの虚を突いた「雲のジュウザ」
次に注目したいのが「雲のジュウザ」だ。その拳は雲ゆえに「無形」。天賦の才能で誰にも読めない我流の拳を繰り出すジュウザの自由奔放なキャラクターと圧倒的な強さは、自由に目覚めた反抗期の中学男子たちの心を鷲掴みにしたものである。
ジュウザは愛するユリアが腹違いの妹であることを知って自暴自棄になり、酒池肉林と自堕落な生活を送っていた。ダメ人間なのにモテるところがまた、少年たちのハートをガッチリとつかんだ。しかし、南斗最後の将の正体を知り、ラオウを阻止するために命を捨てることを決意。前出のヒューイやその兄星・シュレンとは比べ物にならない存在感でラオウと対峙し、初手でその兜を破壊。ラオウを愛馬・黒王号から降ろさせた。
さらにジュウザは、体に油を塗ってラオウの拳をぬるっとかわす曲者っぷりも発揮。2000年代、大みそかの格闘技イベントで体に油性のクリームを塗りたくって相手の攻撃を無効化した「ヌルヌル事件」が物議を醸したことがあった。もしかすると、雲のジュウザのこのアイデアを参考にしたのだろうかと思ってしまうほどである。
もっとも、ジュウザの油塗り戦法は結果的に勝利を呼び込むことはできなかった。ラオウが滑って態勢を崩したところに「撃壁背水掌」を放ったものの、同時に肩の秘孔を突かれて反撃不能に。
さらに、意志とは関係なく口を割ってしまう秘孔「解啞門天聴」をラオウに突かれ、南斗最後の将の正体を詰問される。秘孔の力に逆らおうとして全身から血を吹き出し耐えるジュウザ。そしてラオウの耳元で放った最後の言葉は、「け…拳王の…ク・ソ・バ・カ・ヤ・ロ・ウ…」だった。最後まで自らの意志で動く、見事な死に様だった。