■「長ラン」と「短ラン」、「ドカン」と「ボンタン」

 ヤンキー漫画に登場するキャラクターは、そのファッションも世界観を彩る小道具となっている。改造された学生服を着ているか、制服を着ていない場合も独特な服装であることが多い。

 特に改造学生服はヤンキー特有の文化として根強い人気を誇ってきたので有名ではあるが、その実際の名称は漫画を読んで初めて知ったという人も多いだろう。
 学生服の上着には大きく分けて「長ラン」と「短ラン」、ズボンには「ドカン」と「ボンタン」と呼ばれる種類がある。

 着丈が膝下や脛のあたりまである上着を「長ラン」、逆に着丈が極端に短くベルトラインの上あたりまでしかない上着を「短ラン」と呼ぶ。その中間には「中ラン」と呼ばれる標準よりやや長めのものもある。ズボンは、ウエスト以上にワタリ(ももの部分の太さ)が太くスソも太い「ドカン」と、やはりワタリは太いがスソは細い「ボンタン」とに大別される。

 大まかに言って「長ラン」から「短ラン」へ、「ドカン」から「ボンタン」へとそれぞれ流行が移っていったが、ヤンキー漫画ではキャラ付けのために主要キャラがそれぞれ違うタイプの学生服を着ていることが結構あった。たとえば『ビー・バップ・ハイスクール』ではトオルが長ランでヒロシが短ランだし、『今日から俺は!』では三橋が短ラン+ボンタン、伊藤が長ラン+ドカンといった風だ。

 ヤンキー漫画のキャラに憧れて実際に服装や髪型を真似したり、逆に現実の流行がヤンキー漫画のほうに取り入れられたりと、相互に影響し合ってヤンキーファッションは形作られてきた。特筆すべきは『クローズ』『WORST』で、旧来のヤンキー的な装いがダサいと思われるようになった時代にストリート系のファッションを取り入れたことで、新たな不良の潮流を作り、カッコいいものとしての復権を果たしたと言えるだろう。

 ヤンキー漫画がその時代時代で読者である若者たちに伝えてきたのは、強さやカッコよさ、友情と絆といった普遍的なテーマだが、それをより強く印象付ける符丁として“ヤンキー用語”はその役割を果たしてきた。近年、現実の世界ではすっかりヤンキー文化も下火となり、ヤンキー漫画のキャラクターの定番であった暴走族の数も激減しているという。いずれはヤンキーそのものが、漫画の中でだけ生き残っていく存在となっていくのかもしれない。

 しかし、実生活ではヤンキーと縁のない普通の人々にも浸透して一般化した“ヤンキー用語”が消えることはないだろうし、今後もひとつのジャンルとしてのヤンキー漫画は生まれ続けていくだろう。そうした次世代のヤンキー漫画から、また新たな“ヤンキー用語”が生まれてくるのを期待したい。

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