■深津推しの山王のおじさん「深津のパスがあっての山王工業だ」
続いては、深津推しであろうおじさんの「深津だ いつも黒子役に徹する深津のパスがあっての山王工業だ」というセリフだ。
見た目は「30年」のファンとほぼ同じ、無精髭を生やした白いポロシャツを着た中年男性。深津のパスを高く評価しているこのおじさんは、昨年、全国大会を制したときにもスタメンだった深津の活躍に惚れこんだのだろうか。深津たち3年生が入学してから山王が無敗で来ていることを考えても、深津の冷静な判断から繰り出されるパスに山王の強さが詰まっていると断言する、その視点が実に鋭い。
またこのおじさんは、おそらく試合中にも再登場している。宮城との身長差を活かしてポストアップした深津。シュートフェイクをして赤木を引きつけると、深津はゴール下でフリーになった河田にノールックのパスを通したのだ。このパスを見たおじさんは、「さすが深津!! よく見てる!!」と賛辞を送っている。
このおじさんも昔、深津のようにパスが得意なポイントガードだったのだろうか、そんなことまで考えてしまう。
■観客席より「この時間まで山王相手にリードを保ったチームがあったか」
最後に紹介するのは、人物描写こそないものの、山王の試合をよく観戦していたであろう2人の観客による「この時間まで山王相手にリードを保ったチームがあったか」「まあこれで試合としては面白くなってきたぞ…!!」という会話だ。
彼らのいう「この時間」というのは、前半残り12分になった場面。『SLAM DUNK』が連載されていた当時、試合時間は前後半20分の合計40分だった。つまり、これまでの山王は試合開始から8分時点で、ある程度の点差をリードしてきたということだろう。
この会話では、山王の強さが分かるだけではなく、そんな山王相手にリードしている湘北の健闘を褒め称えているように受け取れる。しかし、「“試合としては”面白くなってきた」とあるように、まさか湘北が勝利するとは思っていないように思う。彼らは湘北が追いついてきたとき、山王と湘北のどちらを応援したのだろうか。
山王戦を彩った名もなき“山王好きおじさん”たちの意外と的を射た観察眼について紹介した。こうしたモブキャラは山王戦以外にも出没しているが、もし桜木たちのような選手が実在したら、彼らのように試合会場でプレイを目撃したいという人は多いのではないだろうか。