■定番の死亡フラグでもかっこいい成蟜の生き様
最後に紹介するのは、初期のころから見違えるほど立派に成長した、王弟・成蟜(せいきょう)である。
成蟜は本作の序盤で王座を我が物とするため反乱を起こすも兄・政に敗北し、長らく幽閉されていた。その後、呂不韋とその一派に対抗するため、政に解放され、彼とともに戦うことを約束するのである。
成蟜について嫌な予感が漂い出すのは、成蟜の第一夫人である瑠衣が故郷の屯留に向けて出発するのを成蟜が見送る和やかなシーンから始まる、第369話「企ての臭い」からだ。
その直後、突如として趙軍が秦の領土である屯留に進軍を始める。早急に出陣できる武将がいない状況のなか、呂不韋は政に出陣するよう進言。呂不韋の怪しい企てを察した成蟜は、政の代わりに自らが出陣することを宣言し、結果的に瑠衣を救いに行く形となった。
呂不韋の怪しげな表情、そして、成蟜が第一夫人を救いに行くという構図の時点で、成蟜はすでに暗雲のなかにいるのである。
そして決定的なのが376話「曲廊」だ。呂不韋の息がかかった屯留兵たちと戦い、ボロボロになりながら瑠衣のもとへ辿り着いた成蟜。自身を置いて助けを呼びに行くよう命令するも“離れたくない”という彼女に、「案ずるな お前が戻るまでくたばりはせぬ」と言う。
自らを置いて誰かを先に行かせるシーンは、漫画やアニメにおけるド定番の死亡フラグであるだろう。こうなってしまえばあとはそのセリフを放ったキャラクターが、最後までどのようにその命を燃やすかに読者の注目も集まるというものだ。
結果的に成蟜は物語序盤の悪いイメージをすべて払拭したうえで、愛する瑠衣を、そして、かつて憎んだ兄をも救うという、男としてはこれ以上ない勇姿を見せ、散っていった。多くの読者に感動を与えた、忘れられないキャラクターの1人である。
あまりに魅力的なキャラクターが多い『キングダム』。自分の好きなキャラクターに不穏な空気が漂い始めると思わず現実から目を背けたくなるが、あらためて読み返してみると、「このシーンですでにフラグ立ってるかも……」と気づいてしまうものである。
しかし、稀にその死亡フラグをへし折ってくる意外な展開も。だからこそ、アニメや漫画の面白さは尽きないのではないだろうか。