■後悔か安堵か…過去を思い出した桜木

 インターハイ最終予選、陵南との試合を前日に控え、安西先生が倒れてしまう。キャプテン・赤木剛憲のもとに緊急連絡が入り、副キャプテンの木暮公延、彩子とともに急いで病院に駆けつけると、そこには目に涙を浮かべる桜木が……。

 涙を見られ「!!」とその場から駆け出していく様子に、「まさか——」と最悪の展開を予想する一同だったが、先生はただ眠っていただけだった。

 その後、先生の妻から先生が倒れたときに桜木がそばにいたこと、テキパキとした処置をして救急車を呼び、病院に運んだ経緯を聞く。普段の言動からは考えられない桜木の迅速な行動に驚く一同だったが、実は彼にはそうするだけの思いがあった。

 喧嘩に明け暮れていた中学時代、桜木は自身の父が玄関で倒れているのを発見。急いで病院へ行こうとするも、喧嘩の相手が仲間を連れ復讐をしにやってきてしまう。「親父が倒れたんだ!! どいてくれーーっ!!」と叫んだ桜木の悲痛な思いが届いたのかは定かではないが、安西先生が倒れた際、彼はそのときのことをきっと思い出していただろう。

 桜木の涙に「まぎらわしい奴!」と憤慨するキャラたちだったが、当然、彼のそのエピソードを知るよしはない。彼の涙には過去への後悔とともに、今度はすぐに助けることができたという安堵の気持ちも含まれていたかもしれない。

■仲間の頼もしさに心が緩んだ赤木

 インターハイ2回戦、山王工業との試合中に見せた赤木の涙にもまた感慨深いものがある。

 残り2分、5点差まで詰め寄った湘北に、たまらず山王・堂本監督はタイムアウトを取る。王者・山王に対して一歩も退かず、決してあきらめない仲間の姿に赤木は過去を思い出していた。

 かつて赤木は仲間に恵まれなかった。全国制覇を目指す赤木とは対照的に「お前とバスケやるの息苦しいよ」と、退部していく部員たち。しかし、同じ目標を持つ木暮とともに部を支え続け、才能あるメンバーに恵まれ、ようやくここまでやってきたのだ。

 そんな思いが溢れたのだろう。「まだ何かを成し遂げたわけじゃない」「なぜ こんなことを思い出してる バカめ」と、つい涙がこぼれる赤木。その様子を見た仲間から「何 泣いてやがる!?」「いつからそんなヤワに……」とさんざん揶揄されていたが、木暮だけは「味方の頼もしさに 一瞬 心が緩んだのか……赤木……」「…ずっとこんな 仲間が欲しかったんだもんな……」と、彼の真意を推し量っていた。

 苦労の連続だった赤木が「このチームは…最高だ……」と、そんなふうに思える仲間に出会うことができ、「ありがとよ…」と感謝を伝えるシーンも、コミカルな描写含め最高に素晴らしい。

 

『SLAM DUNK』で男泣きを見せたキャラは、ほかにも陵南の魚住や福田、豊玉メンバーなど多くいる。それぞれに過去があり、ドラマがあり、見ているこちらもつい感情移入し、涙してしまう。

 読むたびに新しい発見があり、いろんなキャラの思いを感じ取ることができる名作『SLAM DUNK』。公開中の映画でも、きっと新しい発見を見つけられるだろう。

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