■炎上する「本能寺」へと何度も戻ってしまう残念なタイムリープ

 最後に紹介する織田信長は、何度「謀反」を起こされようが不屈の精神で「天下統一」を目指す。

 2020年より『週刊ヤングマガジン』で連載中の『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』は、原作と原案・井出圭亮氏、作画・藤本ケンシ氏による歴史SFギャグ漫画。

 信長は明智光秀により本能寺で無念の死を遂げる寸前、謎のクマが放った光を浴びて7年前の軍議へと「タイムリープ」する。戻った信長は怒りに任せ、まだ「何もしていない」光秀を手討ちにしてしまう。

 驚く家臣を尻目に光秀の返り血まみれとなった信長は、これで謀反を回避できたと喜ぶのも束の間、燃えさかる本能寺で今度は柴田勝家に殺される。こうして信長は何度やり直しても本能寺で死んでしまうこととなる。

 業を煮やしたクマのアドバイスで自分が「ブラック君主」であること、さらに「誰一人として人間を殺すな」という無理難題なルールがこの「運命の輪廻」から抜け出す唯一の方法だと知る。

 とは言え、光秀の死体に腰を掛け、用済みだからと自分を慕う濃姫(帰蝶)を殺そうとするなど、ギャグをまといながらも信長の非道さが随所に描かれているのが恐ろしい。

 世間に多々ある「死に戻り」に加え「殺し戻り」という新たな設定を生み出した本作は、多くの人命を奪った信長が「人を殺さず」自分が生き残るため正しい選択を模索する。また、人との係り合いで少しづつ歴史や出来事が変わるため、信長の動向に目が離せない作品だ。

 今回紹介した「信長」たちは主君として優れた才能を持つも、臣下から恐れられていた。だが、秀吉の妻へと送られた気遣いあふれた手紙などから、やさしく繊細な人物像も指摘されているのだ。

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