手塚治虫『ブラック・ジャック』でB・Jが請求した“男前すぎる報酬”の数々…“一杯のラーメン”に“ぬいぐるみ”もの画像
少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック』第9巻 (手塚プロダクション)

 今年で連載50周年を迎える手塚治虫氏の『ブラック・ジャック』。有名な作品ゆえ、作品そのものは読んだことがなくても、「ブラック・ジャック」というキャラクターをなんとなく知っている方も多いのではないだろうか。

 ブラック・ジャックというと、やはり“法外な報酬”をセットで思い浮かべてしまうが、実際に作品を見てみると、彼は信じられないくらい安い料金で手術を引き受けたり、ときに“お金ですらない”報酬で動くこともある。

 そこで今回は、作中でブラック・ジャックが受け取った、お金以外の“男前すぎる報酬”について紹介していきたい。

■食べ物を報酬の代わりに…「一杯のラーメン」に「ひと月ぶんの飲み代」など

 ブラック・ジャックは治療をした際、食べ物を報酬の代わりとすることがたびたびある。なかでも印象的だったのが、秋田文庫版3巻収録の「ある女の場合」というエピソードだ。

 ある夜、ブラック・ジャックは駅のホームでひとりの女性と出会う。その女性は突然倒れて血を吐き、ブラック・ジャックはその場で緊急手術をすることに……。

 一命を取り留め目を覚ました女性は、現在は一文なしであることを打ち明けつつも“いつか手術代を支払いたい”と彼に伝える。かつて有名な社交場のホステスだった彼女には、彼女なりのプライドがあったのだ。

 しかしそれでも彼は金額を提示せず、「ま そのうちにラーメンをおごってくれよ」と立ち去ってしまう……。

 その後ふたりが偶然再会を果たしたとき、女性はやり手の貿易商と結婚し大金持ちになっていた。“主人のお金はあたしのお金”と言う彼女からかつての手術代として“五千万円”という大金を提示されるが、「そんな五千万円よりあなたが心をこめておごってくれるラーメンの方が満足でしてね」と大真面目に答えるブラック・ジャック。

 この後の展開についてはぜひ本編を読んでいただきたいのだが、彼の粋なところが存分に発揮されていたエピソードだ。信念が垣間見え、本作の人情モノのなかでもひときわ輝きを放つ回だと思う。

 また、秋田文庫版1巻収録の「春一番」では、行きつけの居酒屋の主人の娘を手術したとき、“ひと月間だけただでのませる”のを報酬代わりにしたことも。相手はちゃんと払うつもりだったが「まともに私が請求書を出すと おやじさん心臓マヒを起こすぜ」とおどかされて納得している。

 さらに、「うまいスシを食べさせてもらうこと」を報酬代わりにしたことも。同じく秋田文庫版1巻収録の「二つの愛」で、お気に入りの寿司職人に“他人の両腕を移植する”という、世界にも前例のない難しい手術を引き受けたときのことである。

 このエピソードは最初から最後まで非常に泣かせる話で、何度読んでもじんと来てしまう。手術にいたるまでのドラマチックな展開も必見だ。

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