ここ数年アニメや小説などで「悪役令嬢モノ」が人気だ。主人公をイジメる役の彼女たちは美しい容姿に加え、その髪形が豪華な「たてロール」であることが多い。「たてロール」とは髪の毛をロール状に「たて」に巻いた髪形の愛称で、『ベルサイユのばら』に登場したマリー・アントワネットなどが分かりやすい例かもしれない。
そもそも「たてロール」は自分で作るには困難な髪形で、現代もコテを駆使して頑張らないと難しいレベル。そのため「たてロール」キャラは身の回りを世話する使用人を雇うほど裕福な家庭の、いわばお嬢様のイメージになった。
たてロールキャラが「意地悪なお嬢様」として描かれることは多いが、その一方で実は「主人公を導く」ポジションも少なくはない。今回はそんな彼女たちの活躍をふり返ってみたい。
■元祖テニスブームをけん引した憧れの先輩
いくつもの「たてロール」を大きなリボンで束ねた彼女を見たら「そんな髪形でどうやって試合するの?」と思わずにはいられないのが、山本鈴美香氏が描く『エースをねらえ!』の「お蝶夫人」だ。
本作は平凡な女子高生・岡ひろみが、テニスの名門校で苦難を乗り越え成長する物語。鬼コーチこと宗方仁をはじめ、作中では主人公・ひろみを応援する人物が多く登場するが、なかでも彼女を終始支え続けた「お蝶夫人」こと竜崎麗香の存在は欠かせない。
竜崎は超高校級のテニスプレイヤーで、蝶のように華麗に舞うフォームなどから「お蝶夫人」と呼ばれるようになった。ちなみに「夫人」呼びや「ですわ」口調の彼女であるが、登場時はれっきとした女子高生。庭球協会理事である父親が夢見た日本テニス界を自分の力で叶えようと幼い頃より誓いを立てるなど、誰にも負けない強い意志を持った人物だ。
そんな竜崎に憧れてひろみはテニス部に入部しており、彼女も後輩のひろみを妹のように可愛がっていた。ところが、宗方コーチの判断でひろみが実力以上の抜擢が続いたことに疑念を持ち、一時期ふたりの関係性に亀裂が入ってしまう。
だが、試合を通して竜崎がひろみの才能を認めたことで、互いにダブルスのパートナーとして強い絆で結ばれるようになる。
全日本ジュニア選抜試合で対決する際には、「きなさい 死ものぐるいで」とひろみに対して「覚悟」を促したうえで、自身も全身全霊のプレーを見せることで真意を伝えた。
その後も、自分の誓いや願いさえ諦め、テニスプレイヤーとして世界に羽ばたき出したひろみを後押しするため尽力し続ける。
そんな高潔な彼女だからこそ、今も多くのファンから尊敬を込め「お蝶夫人」と呼ばれ続けているのかもしれない。
■後輩を魔法少女へと導いたお姉さん
続いては、ライトベージュの髪を大きなスプリング状の「たてロール」にした“マミさん”を取り上げたい。
巴マミは『魔法少女まどか☆マギカ』に登場する魔法少女のひとりで、主人公・鹿目まどかと同じ中学に通う1学年上の3年生。窮地に追い込まれていたまどかたちを救い、魔法少女の存在や魔女との戦いについて教えるなど影響を与えた先輩キャラだ。
後輩の前では「頼れるお姉さん」であるマミだが、本音は魔法少女として孤独な戦いを続けるなかで不安と恐怖に苛まれていた。そのため、自分に憧れて魔法少女になると決心したまどかから「マミさんはもう一人ぼっちなんかじゃないです」と言われ思わず涙ぐんでしまった。
そんな彼女が魔力の根源であるソウルジェムに込めた願いは「生きる」こと。交通事故に遭ったマミは両親を失い、自身も瀕死状態となった際にキュゥべえが現れ「契約」を持ちかけたのである。
変身時の姿は、ブラウスとスカートにコルセットなどを組み合わせているため、他メンバーなどと比べればシックなデザインだが、やはり茶系のベレー帽をかぶったたてロールの髪形がなによりも特徴的。キャラクター原案を務めた蒼樹うめ氏がアニメ雑誌に寄せたコメントによると「みんながあこがれる存在」であり、彼女の髪形も「先輩の余裕を感じさせる髪形ですね」と語っている。
つい「マミさん」と“さん”をつけて呼びたくなってしまう彼女。たてロールのイメージが先輩魔法少女のイメージを強くしているのは言うまでもないだろう。