少女漫画においてヒロインと結ばれるのは、ヒーローの特権だ。だが、そんな彼らの陰で恋愛よりも友情をとって身を引いてしまった男たちがいる。
ヒロインと結ばれるチャンスがありながらも男同士の友情をとってしまった彼らは、結果的に“当て馬”として物語を盛り上げる重要な役割を果たすことになる。
今回は、友人に譲ってヒロインを逃してしまった男たちを紹介していこう。
■ヒロインの憧れの“王子様”だったのに…『花より男子』花沢類
“花男”の愛称で親しまれている神尾葉子氏による『花より男子』(集英社)は、アニメやテレビドラマ化もしている言わずと知れた人気作品だ。
本作は、一般中流家庭で育った牧野つくしがお金持ちばかりが通う英徳学園に入学し、荒波に揉まれながらも日々を奮闘するストーリー。
つくしは明るくて正義感の強い性格だが、それが災いし、校内で絶対的権力を持つグループ「F4」に目をつけられてしまう。花沢類は「F4」のメンバーの一人として登場するが、彼の端正な顔立ちにはつくしも思わず惹かれてしまい、当初は“ビー玉の瞳の王子様”なんてニックネームをつけ呼んでいたほど。
夜遊びや女遊びが激しい仲間たちとは違い、読書が趣味でバイオリンを得意とする類。まさに絵に描いたような“王子様”を地で行く彼は、つくしにとって良き相談相手であり、常に守ってくれるかけがえのない存在だった。
類には幼少期から想いを寄せる憧れの女性・藤堂静がいたが、つくしのまっすぐで一生懸命な姿を見ているうちにだんだんと惹かれていくことになる。そして、静への気持ちが恋ではないことに気づいてからは、つくしへのその思いが確固たるものへと変化していった。
しかし類は、「F4」のメンバーで大切な友人・道明寺司のために身を引く。つくしを手に入れようと思えば届く位置にいたはずなのに、彼は司がつくしを真剣に愛していることを間近で見て感じていたのだ。
結果的に恋が叶わなかった類だが、本作のなかでも1、2を争うほどの人気キャラクターである彼の“自ら身を引く”という男前な姿に心を掴まれたファンは少なくないだろう。
■ヒロインと結ばれる未来を知りながら身を引く『orange』須和弘人
高野苺氏による『orange』(双葉社)は、10年後の自分から手紙が届くという不思議なストーリーだ。
16歳の高宮菜穂は、のちに恋に落ちる転校生の成瀬翔が17歳で亡くなってしまうことを未来の自分からの手紙で知ることになる。また、この10年後の自分からの手紙は、菜穂だけでなく、彼女の良き相談相手で秘かに菜穂を思う須和弘人をはじめとした友人たちにも届いていた。
須和は菜穂のことが大好きなキャラクターで、彼女の一挙手一投足で涙してしまうことがあるほど強い思いを持っていた。
彼は10年後の自分からの手紙で、自身が成瀬のいない未来で菜穂と結ばれていることを知る。しかしこれは、菜穂と成瀬が喧嘩をしたときに自身が菜穂に告白をしたためだった。
この事実を知った須和は「俺は絶対 菜穂に告白しない」と心に決め、友人である成瀬の命を救うことに尽力していく。
「いつもありがとう」と言われるだけで、嬉しくて泣けてしまうほど好きな人を、友人の命を守るために諦めた須和。未来では菜穂と結婚していることを知っていてもなお、成瀬のために身を引く姿。彼ほど友達思いの男はなかなかいないのではないだろうか。