■『崖の上のポニョ』嵐のなか、リサはなぜ幼い宗介とポニョを置いて行った?
2008年公開の『崖の上のポニョ』からは、宗介の母・リサが嵐のなか自宅に幼い子どもを残して職場に行ってしまうシーンを紹介したい。
宗介は5歳の男の子だが、年齢を感じさせないほど大人びたキャラクターだ。家を空けがちな父・耕一に代わってリサと家を守る頼もしい存在でもある。
しかし、だからと言って、5歳の子どもを大荒れの天候のなか留守番させるだろうか。
ポニョの父・フジモトによると、“ポニョが世界に大穴を開けた”ために引き起こされた突然の大嵐。リサは勤務先の老人ホームが心配になり、嵐が落ち着いてきたタイミングを見計らって車に乗って出て行ってしまう。
船に乗る耕一たちにとって“灯台のような存在”でもあるリサと宗介の家。そんな家の灯りを絶やさないことが船に乗る人たちを励ます……と、彼を鼓舞するリサだが、忘れてはいけないのが宗介はまだ5歳だということ。ましてやポニョも一緒にいる状況で、子ども2人を置いていくリサの行動は「共感できない」と厳しい意見が寄せられるのも無理はない。
もちろん「物語の都合上リサを外出させる必要があった」と言ってしまえばそれまでの話ではあるが、同時に宗介というキャラクターを引き立てるために鉄砲玉のようなリサのこの行動が必要だったとも考えられる。
彼女はまっすぐで天真爛漫な女性だ。耕一が約束を守れなかったときは酒を飲んで酔い潰れ、車の運転も子どもを乗せているとは思えないほど荒々しい。
それに対し、しっかりしていて大人しい宗介。この2人は見事なコンビネーションで日々を生きており、リサにとって宗介は息子というよりも相棒のような存在でもあるだろう。
嵐のなかリサが取った信じられない行動は「宗介との信頼関係」が確立されているからこそ可能で、彼女がいなくなったことで張り詰めて大人びていた宗介が“5歳の子どもらしい”姿を見せたことも、本作での重要なエッセンスだったと感じる。
ジブリ作品で描かれる主要キャラにまつわる謎について考察してきたが、このようにキャラの行動や設定についてファン同士で議論するのも醍醐味の1つだ。
謎の真相は宮崎駿監督のみぞ知るわけだが、真意がわからないからこそ、キャラをリアルに感じることができ、より見る人を楽しませてくれる要素になっているのではないだろうか。