■助ける気なんかないくせに…悪人に対する流儀は変わらない
ここまで挙げた2つのエピソードは、物語開始当初、ケンシロウがまだ19歳だったときのものだ。それから数年後、血の気の多い10代のころと比べて少しは丸くなったかと思いきや、悪党に対する彼の流儀は変わらない。
賞金稼ぎのアインたちとともに、不当に捉えられた囚人を解放するべく収容所に乗り込んだときのこと。仲間の裏切りによってアインの娘・アスカが人質になり、抵抗できないアインは敵からさんざんいたぶられてしまう。
それを見たケンシロウは、アスカを人質にとっていた男を後ろから羽交い絞めにし、男の額にナイフを突きつける。男が仲間に向かって”こいつを殺せ”と喚くと、ケンシロウは「うるさいよ」と、突きつけたナイフをそのままズブリ。そして悲鳴をあげる男に「痛いか?」と尋ねる。「いっ 痛い‼」と男。続いて「助かりたいか?」と質問。男は当然「助かりたい助かりたい」と必死だ。しかしケンシロウはあっさり「だめだな」と言うと、男の必死の命乞いを無視してゆっくりとナイフを差し込み、後頭部まで貫いた。
さも助かる方法があるかのように一瞬でも希望を持たせておいて、そこからじわじわ突き落とす。ドSぶりは健在どころか、むしろブラッシュアップされているような気もする……。
昔ながらの勧善懲悪から、あえて善悪の価値判断を問わない流れになりつつある現代にあって、このような徹底的に悪をいたぶる場面は逆に新鮮だ。ある意味ケンシロウは、良くも悪くも昭和の空気を感じさせる“エモい”キャラクターなのかもしれない。