■人間と機械の境界線を越えた男の苦悩と愛

 数多いる「酷い目に遭った」キャラのなかでも、「復活編」の主人公はまだましな部類。だが彼が経験した世界はかなり異質だ。西暦2483年のある日、少年レオナはエア・カーから墜落死するのだが、小脳のほとんどを人工頭脳と入れ替え復活する。だがその後遺症により、彼の目には周囲の人間が醜い無機物に見えるようになり、相手の感触や声さえ「汚らしいガラクタ」と感じるようになってしまう。

 作中ではレオナの目を通した不気味な世界が描かれるが、その異常な世界に筆者はページをめくるたび恐怖を感じた。

 ある日、レオナは自分にとって唯一「まとも」な姿のチヒロと出会う。チヒロは金属製の無表情なロボットだが、レオナにとっては美しい女性に見えており、いつしか互いに愛し合うようになってしまう。つまりレオナは「人間でありながらロボットの心を持ってしまった」サイボーグで、チヒロはロボットでありながら感情を持ってしまったことになる。

 それからもレオナが辿る運命は数奇なものであった。実は、彼の死因は墜落死ではなく火の鳥の血を巡ってのことだと判明し、女ボスに愛されたことでレオナの身体が彼女へと提供されてしまうのだ。

 レオナの望みを受けた医師により、チヒロと融合した彼の「記憶(心)」は武骨なロボット「ロビタ」の中へと入れられる。後にロビタは大量コピーされるが、その一体が遠い星で「猿田」博士と出会った。

 人間のままでは結ばれることのなかったチヒロとレオナだったが、火の鳥が介入しなければ出会うこともなかったかもしれない。

 本作の感じ方は人により千差万別といえるだろう。筆者は子どものころに「牧村は酷いことをしたから仕方がない」と感じていたが、年齢や経験を重ねた今あらためて読み返すと「いや、牧村も管理世界の被害者だ」と彼の肩を持ちたくなっていた。

 世代や時代、その時々の体調や環境によっても感じ方が変わる『火の鳥』を、これから何度でもくり返し読み続けたい。

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