■「守る」か「挑む」か…『ベルセルク』ガッツ
現代っ子のスバルと違い、三浦建太郎氏の『ベルセルク』の主人公・ガッツは生まれた瞬間から戦場で生きている。
彼は戦場で死亡した母親から泥のなかに生まれ、傭兵団に拾われて戦場で育つ。ひどい扱いを受けていた養父を11歳のときに殺してしまい脱走。
その後に加わった傭兵団「鷹の団」では仲間に恵まれ、戦友であり恋人となるキャスカと出会い、団長のグリフィスは初めて“真の友”になりたいと願う存在になり……と、ここで初めてガッツは人と心を通わせた。
しかしグリフィスは己の野心を叶えるため、彼がもっとも大切とするものである「鷹の団」を“覇王の卵”ベヘリットへの生贄に捧げる。そこで行われたのが、殺戮の宴である『蝕』。ガッツの目の前で、仲間はなぶり殺しにされ、なんとキャスカはグリフィスに凌辱される。
辛うじてガッツとキャスカだけ生き残るも、ガッツは右目と左腕を、キャスカは正気を失ったうえ、「生贄の烙印」によって一生命を狙われることとなった。
ここからガッツの復讐の旅が始まるが、新たな仲間を得ることで、復讐ではなくキャスカを守ることが旅の目的になっていく。それでもなお、彼のなかに残る激しい憎悪は、呪われた武具「狂戦士の甲冑」の力によって「闇の獣」として顕在化する。
仲間を守るためには甲冑の力が必要だが、これを使えばガッツは闇の獣に蝕まれ、仲間をも傷つけそうになる。仲間を守ることと、グリフィスに挑むこと。今度はその葛藤がガッツを苛む。どこまでいっても「もがく者」なのだ。
なお本作は、作者である三浦建太郎氏の逝去後も残ったスタッフによる制作続行が決定し、今も多くのファンがガッツの旅の行く末を見守っている。
■すべてを奪われたその先は?『ヴィンランド・サガ』トルフィン
“復讐に生きる”という点では、幸村誠氏による『ヴィンランド・サガ』の主人公・トルフィンも同じだ。
ヴァイキングの大戦士だった父・トールズに憧れ、黙って戦場についていったトルフィン。その道中で傭兵団に襲われ、人質になった息子を助けるため、父は剣を捨て殺される。
父の復讐を誓ったトルフィンは、故郷も家族も捨て、仇である傭兵アシェラッドについていく。戦場で手柄を立てた褒美にアシェラッドとの決闘の機会がもらえるので、そのためにどんな汚れ仕事もした。しかし何度挑んでもアシェラッドには勝てず、トルフィンは少年時代のほとんどを復讐と殺しと略奪に費やすことになる。
あろうことか、そのアシェラッドはデンマーク王子クヌートに殺される。錯乱してクヌートに斬りかかったトルフィンは逆賊として捕えられ、奴隷に身を落とすことに。
人生をかけた復讐も、生きる目的も、人間としての尊厳も……すべてを奪われ、血にまみれた過去だけが残されたトルフィン。この先どう生きるかは、2023年1月よりアニメ2期で描かれる。
現代日本に生きるほとんどの人には縁がないであろう、いくつかの人生を紹介した。フィクションであっても、そこには自分では体験できないたくさんの人生があり、作品をとおしていろんな人の生き様や心に触れることができる。これだから漫画はやめられない。