『THE FIRST SLAM DUNK』原作未読アラサー元バスケ部女子が“予備知識ほぼゼロ”で見て感動したワケの画像
『THE FIRST SLAM DUNK』(C) I.T.PLANNING,INC.(C)2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

 映画『THE FIRST SLAM DUNK』が12月3日の公開以来、爆発的なヒットを遂げており、12月19日に発表された累計成績は動員281万人、興収41億8900万円を記録した。また同作の内容についてこれまであらすじなどは公開されていなかったが、12月23日に新たな映像が公開。宮城リョータの少年時代の様子や全国大会での山王工業との試合の風景が映し出された。

 今回は映画の前売券発売後にメインとなる選手5人の声優を一新したことが発表されたりと、昔からの作品ファンの賛否の声もあったが、蓋を開けて見ればそんな前評判もなんのその。各地で映画のクオリティに絶賛の声が集まっている。

 ところで筆者は中学生時代にバスケ部に入っていたアラサー女性であるが、実は井上雄彦氏による漫画『SLAM DUNK』を一度も読んだことがない。なんとなくメインであろうキャラクターの名前と、ネット上でよくネタにもされている「安西先生 バスケがしたいです」「あきらめたらそこで試合終了ですよ」「まだあわてるような時間じゃない」などのセリフは知ってこそいるが、それらがいつどのようなシーンで使われた、どれほど感動的な場面かはいっさい分からないのだ。

 そんな筆者が、すでに映画を「履修」した職場の先輩に「今からなんの知識もなくまっさらな状態でこの映画を観られるのが羨ましい」と送り出されながら、流行の最先端である『THE FIRST SLAM DUNK』を、これまた『スラダン』未履修の友人と一緒に観に行くことにした。

※以下、映画の内容に一部触れる部分があります。

■観客の呼吸も止まり、四方から鼻をすする音が

 土曜の昼間とあって、都内の映画館は満員。客層はおおむね筆者と同年代か少し上の人が多いようで、男女の比率もそこまで偏りはなかった。

 映画が始まりまず意外だったのが、宮城リョータの過去から物語がスタートしたところだった。本作ではインターハイ2回戦の山王工業高校との試合の中で、宮城の過去が挟まれる形で物語が進行する。明るくチャラいイメージのあった宮城の重い過去に驚きつつ、バスケの試合は意外にも淡々と進んでいった。

 スポーツものの作品といえば、試合の中でのチームの作戦や、仲間同士の絆を感じるエピソード、もっといえば必殺技を叫びながら会心の一撃の応酬を重ねるイメージすらあったので、バスケに関する説明が何もなく試合が進行していく様子を見て驚いた。自分はバスケ経験者だが、「他のお客さんはルールを分かって見てるのかな」と少し不安を覚えたりもした。

 きっと今回の『SLAM DUNK』は「そういう」作品ではないのだろう。バスケに関して無駄なものを削ぎ落とし洗練された表現だったのかもしれない。

 初めて見る山王のメンバーは、沢北以外、結局最後まで誰が誰なのか分からずじまいだったが、気がつけば圧をかけられ怯む湘北のメンバーを「頑張れ、頑張れ」と応援する自分がいた。そして桜木花道の「4点分の働き」のシーンをきっかけに各選手が点差を埋めていくシーンから、物語は試合に重点が置かれるようになる。

 つい先日、ワールドカップの日本の活躍で日本中が盛り上がっていたが、この映画館内の熱狂はまさにそれに似ていた。時間が止まったような無音の演出や、そこから一気に時が動き出す演出には観客の呼吸も止まり、そして一気に動き出す。皆が同じ気持ちで試合を見守っている一体感を感じた。そして、私や友人がボロ泣きをしてしまった某シーンでは、四方から鼻をすする音が聞こえてきた。喜怒哀楽を全て、皆で共有している不思議な高揚感があった。展開の分からない試合はかくも面白いものなのか。

 そしてもう一つ私が自分自身に驚いたのは、途中で桜木がバスケを始めてからのシーンがスクラップされたように回想として挟み込まれるのだが、この映画で初めて『スラダン』を見たのにも関わらず、まるでずっと昔から彼らを見守り応援していたかような気分にさせられたことだ。それにしても、桜木がバスケを初めて4か月というのは今でもにわかに信じられないが。

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