■ヒーローの苦悩を誰も理解してくれない!『パーマン』須羽ミツ夫
ほかにも主人公の苦悩によって挫折をするケースがある。それが藤子・F・不二雄氏による『パーマン』(小学館)の須羽ミツ夫だ。ミツ夫はヒーローとして、無償で困っている人を助ける毎日。正体を明かすことができないため、助けられた人は当然パーマンが誰かは分からない。
そんな毎日が続くうちに、ミツ夫にも限界が訪れる。自分が何のために人助けをしているのか分からなくなってしまうのだ。
毎晩のように事件解決に向かうことで寝不足気味になり、授業中に居眠りをして周りから叱られてしまう。パーマンとして褒められても、須羽ミツ夫として褒められないなら意味がないとも考えるように……その結果、ミツ夫は「ぼく、パーマンをやめます」と、パーマンセットを投げ出してしまった。
その後、ある地域で水害が起こり、救助活動をしようと仲間から声が掛かる。しかしミツ夫はその申し出を断り、布団に潜り込んでしまう。そのまま寝ようとするが……なかなか寝れない。その理由は、災害で困っている人たちのことをつい考えてしまったからだ。
居ても立ってもいられなくなったミツ夫は、パーマンに変身し、現地に向かうことに決めた。その様子を見ていたスーパーマン(バードマン)は「なんのとくにもならず、人にほめられもしないのに、なぜいくんだい?」と問うと、ミツ夫は「わからない……。でも 行かずにはいられないんです」と答えて、パーマンの復活となる。
この場面は、現実でも共感できる深いやり取りだと思う。ミツ夫が心身ともにヒーローとなった名シーンだろう。
どんなに挫折をしたとしても立ち上がろうとするのが、主人公の宿命と言えるだろう。そして、彼らがそれぞれ困難を乗り越えたからこそ、成長した新たな姿や活躍を見ることができる。乗り越える壁が大きいと、そのぶんだけ読者の胸が熱くなるのは間違いない。