■本当に大丈夫?どんな頼みごとも断れない「Yロウ」

 個人的にもっとも現実味にあふれすぎていると思うひみつ道具が「Yロウ」(てんとう虫コミックス第11巻で登場)。「賄賂」をもじったY字型のロウソクで、効果も賄賂そのもの。「Yロウ」を渡して頼みごとをすると、頼まれた人は絶対に断れないのだ。ドラえもんが出すひみつ道具には、時々こういう思いっきり法に触れそうなものが出てくるのだが、未来では合法なのだろうか?

 作中で「Yロウ」は2回使用される。野球の道具をママに取り上げられたのび太が、「Yロウ」と引き換えに返してもらうシーンでの、「ところでこれ何につかうの?」と訊かれて「深く考えないで」と答えるのび太のなんとも言えない表情が必見だ。

 さらにのび太は、ジャイアンに対しても「Yロウ」を使用する。ジャイアンが指揮する野球チーム「ジャイアンズ」で2軍落ちが確定したのび太は、1軍入りの約束を取りつけて試合出場の機会を確保したかったのだ。しかし、明らかに実力で劣るのび太が1軍入りしている状況に、スネ夫を始めとするチームメンバーから疑惑の声が上がる。

 説明を求められたジャイアンが言い放つ「記憶にない!」は、まるで疑惑を追及された政治家のようで現実味がありすぎる。一方、のび太は仮病を使って公の場に出てこない。当時の筆者は子どもだったため、特に何も感じなかったが、あらためて見ると現実でも見たことのあるような光景は『ドラえもん』らしい尖ったジョークと言える。

 実際に使用するととんでもないことになりそうではあるものの、よほど神経が図太くなければ罪悪感や後ろめたさが半端ではなさそうで、実用は意外と難しいかもしれない。

「あんなこといいな できたらいいな」で始まるアニメ版主題歌でもおなじみの『ドラえもん』だが、その無邪気で夢のある歌詞とは裏腹に、今回紹介した“夢のない”ひみつ道具にはなかなかに深い闇を感じてしまう。

 だが、ドラえもんのひみつ道具は、使い方を誤ると理想とは違う結果を生み出しがちだとはいえ、結局のところあくまで道具に過ぎない。使う人次第で、その結果は良いほうにも悪いほうにも行き着くのだ。『ドラえもん』は、それを感じさせてくれるからこそ、幅広い世代から愛されているのだろう。

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