■王者山王にとって桜木は挑発しがいのある男?
山王戦で赤木は河田に現実を突きつけられることで自分を見失ったが、ほかのメンバーも、圧倒的な実力差を思い知らされ、気力や精神力を削られていった。
そんな局面で“追い上げの切り札”になることを託された桜木。チームを盛り立てようとするも、そこに野辺将広が「おまえの仕事はリバウンドだろう」「させないよ 赤坊主」と立ちふさがる。
実際、桜木は野辺相手にほとんどリバウンドをとれていなかった。先の赤木同様、実力で勝る相手から現実を突きつけられた形になる。
しかしそこは桜木、野辺のスクリーンアウトをかいくぐる方法を考えつつ、ひとまずリバウンドの際に野辺のユニフォームをこっそり引っ張るという奇策に出る。それによりペースを乱されっぱなしの野辺。まともな選手にはよく効く挑発も、奇人・桜木には効果がないどころか逆効果だったようだ。
そんな野辺に代わり、河田が桜木のマークにつく。「はっはっはっ 死ぬ気でかかってこい丸ゴリ‼」「それでも この天才は止められまい‼」とイキがる桜木だったが、河田はあっさりとリバウンドを制し、「あれっ?」「いたのか」と倒れた桜木を見下ろす。その表情は、まるで立ち向かってくる桜木をあしらって楽しんでいるかのようだ。
そう考えると、打ち負かされても折れることなく何かしでかしてくる桜木は、常に強い相手を求めている山王の面々にとって、挑発しがいのある相手なのかもしれない。もっとも、相手を本気にさせるための心理戦なんて、よほど強くて自信のある選手でないと意味のないものだろうが。
パワーで魅せる大柄な男たちにも、その裏に繊細な駆け引きがある。このような「心技体」すべての要素が描かれているからこそ、『SLAM DUNK』は面白い。映画公開を機に、これら三つの要素それぞれに注目しながら、再度原作を読み返してみたいところだ。