12月3日から公開中の、映画『THE FIRST SLAM DUNK』。公開からわずか9日間で観客動員数202万4129人、興行収入30億3549万2950円を記録したという。連載終了から30年近くたった今でも、その人気はまったく衰えていないようだ。
そんな井上雄彦氏の『SLAM DUNK』は、流川楓や仙道彰といったエースたちの華麗な活躍もさることながら、赤木剛憲や魚住純のようなゴール下を守る大柄な男たちのぶつかり合いも見どころの一つ。そこではパワーやフィジカルだけでなく、細やかな心理戦も勝負の重要なファクターとなっている。
今回はそんなゴール下での心理戦に焦点を当てていきたいと思う。
■気合入りすぎ! “舌”好調の陵南キャプテン魚住純
インターハイ出場をかけた陵南対湘北の試合では、ライバル赤木への思いが募り、気合が入りまくりの陵南キャプテンの魚住純。そのパワーたるや、赤木ですらブロックされた勢いで床に倒れてしまうほどだ。
そんな絶好調の魚住が赤木に向けて放った言葉が、「この程度でスッ転ぶとは思わなかった」「スマンな」というもの。ありがちな挑発ではあるが、
海南戦で足を痛めていた赤木には、これがあとからジワジワと効いてくる。
「ターンできるか…⁉」「いつも通りのステップを踏んだら悪化しないだろうか」「テーピングはしっかり巻いてあるのか…⁉」「この足で魚住に勝てるのか?」……いったん足への不安が芽生えてしまった赤木は、本来のプレイができなくなってしまう。身体的な不安を抱えた選手にとっては、何気ない挑発でもその心理的影響は計り知れない。
赤木の不調を察し、魚住に「ゴリが不調でもさらに手強い男がいることを忘れんなよ」と釘を刺しに行った桜木花道。これに対しても魚住は、キョロキョロとあたりを見渡して「見当たらんな‼」と煽り返す。桜木も188〜189センチと大柄ではあるが、202センチの魚住からすると、“実力だけでなく体格的にも話にならない”という揶揄も込められているのだろう。
結果、桜木は自分から挑発しに行っておいて逆にイラっとさせられてしまう。この局面では、技だけでなく心理戦も魚住の大勝利と言えるだろう。
■心理戦でもアツかった…山王工業対湘北の試合!
「絶対王者」の肩書と圧倒的な実力を持つ山王工業との戦いは、試合そのものが心理的な要素を多く含んでいた。そして、湘北対山王の試合でもっとも揺さぶりをかけられたのは、湘北の大黒柱・赤木だったと思う。
赤木の相手をしつつ、弟の美紀男に指示を出す余裕を見せる高校バスケ界最強のセンター・河田雅史。赤木は「いいのか? 弟の方ばかり気にしていて…」「そんな余裕はねえだろ 河田」と挑発するが、あっさり「あるよ?」「もっと 全力でぶつかれよ赤木」と逆に言い返されてしまう。
のちに河田との圧倒的な実力差を痛感する赤木にとって、これほど刺さる言葉はない。ただの挑発ではなく、事実だからこそ余計に響くものがあったであろう。挑発に対するカウンターまで華麗な河田。赤木との差がより明確になった場面である。
一方で美紀男と桜木とのマッチアップ場面では、めずらしく桜木のほうから揺さぶりをかけている。大柄な美紀男にパワーで押されっぱなしの桜木が、やがて美紀男のパターンに気づき、そこから立てた仮説をぶつける。
「さてはおめー…」「ゴール下しか入らねーな?」と。これが図星だった美紀男と、仮説が正しいという確信を得た桜木。この心理状態の差は大きい。
これ以降、桜木は美紀男にまったく押されなくなる。桜木のもともとのポテンシャルあってのことだが、心理的に優位に立つことは自分の持ち味を活かすうえで大きく影響するのだろう。