手塚治虫『ブラック・ジャック』規格外すぎた高額請求ベスト3「あるスターの死」「通り魔」などの画像
少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック』第7巻 (手塚プロダクション)

 2023年に連載50周年を迎える、手塚治虫氏による『ブラック・ジャック』。闇医者のブラック・ジャックが天才的な腕前を駆使し、さまざまな事情を抱える患者を救っていく物語だ。基本的に1話完結型なので、どこから読んでも楽しめるのも魅力のひとつである。

 主人公のブラック・ジャックは常識外れの手術代を請求することでも有名だが、久しぶりに読み返して作中の高額請求を洗い出してみたところ、その金額に仰天してしまった。今回はそのなかからベスト3を紹介していこう。

 なおここで紹介するのは、“請求金額の総額がはっきりとしているもの”に限る。またドル表記の金額については、連載当時のレートを参考に円換算した。

■第3位:「あるスターの死」500万ドル(約15億円)

 第3位にランクインしたのは、大スターマリリン・スワンソンの執念を描いた「あるスターの死」(秋田文庫版13巻収録)。請求額は500万ドルである。

 数十年前に世界を熱狂させた世界的女優スワンソンは、年を取ってすっかりおばあさんになってしまっていた。そんなある日、“マリリン・スワンソン”というネームバリューを利用したい映画プロデューサーが彼女のもとを訪れ、“立ってるだけのチョイ役”での出演を依頼してくる。

 今の姿では恥をかくだけと考えたスワンソンは日本へ飛び、ブラック・ジャックに若返りの手術を依頼。はじめは無茶だと突っぱねたブラック・ジャックだが、手術をしてもらうために自殺未遂をするほどの執念に負け、彼女を全盛期のころの姿に戻すことにする。

 その後手術は成功し、ブラック・ジャックはスワンソンの全財産である500万ドルを受け取った。しかし不幸にも彼女は撮影に向かう途中、交通事故で命を落としてしまう……。

 連絡を受けて駆け付けたブラック・ジャックは、彼女が映画に「死んでも出たい」という遺言を残していたと知り、ロス市警にとある依頼をすることに。それは彼女の遺骨に肉付けをして生前の姿を再現し、“立ってるだけの出演”を叶えさせるというものだった。

 その際ブラック・ジャックが支払った金額は500万ドル。患者が亡くなった後だというのに、受け取った金を彼女の夢のために惜しげもなく使ってしまうところが、なんとも義理堅く彼らしい。

 なお同じく整形手術をした「失われた青春」では合計2度の手術を予定しており、2度目だけで500万ドル請求していたことがわかっている。総額は不明なので今回はランキングに入れていないが、一部の金額だけでも同率3位になるのだから恐ろしい。

■第2位:「通り魔」1000万ドル(約30億円)

 第2位はアラスカ・マッキンリー山近くにある町を舞台にした「通り魔」というエピソード(秋田文庫版8巻収録)。請求額は、第3位の2倍となる1000万ドルだ。

 この地では、近ごろ謎の傷害・殺人事件が発生し続けていた。治療のためにやってきたブラック・ジャックは住民が血だらけで倒れているところに遭遇し、そこにやってきた刑事から犯人だと誤解されて追われることになってしまう。

 実は一連の事件の原因は、近隣のミサイル実験場でミサイルが発射されるときにできた“真空の渦”。これが人々の身体に傷をつけ、場合によっては死に至らしめたのだ。いわゆる“かまいたち現象”のようなものである。ブラック・ジャックはこの事実を証明するため、みずからその現象が起こる場所に立って、腕に大怪我を負ってしまった。

 その後病院に運び込まれたブラック・ジャックは、ミサイル実験をおこなっていた基地司令官から見舞い金が届けられたとの知らせを受ける。しかし彼は「そんなはした金はいらないね」と言って、被害に遭った者への慰謝料と自身の手術代を合わせた1000万ドルを要求するのだった。

 ブラック・ジャック自身が受け取った金額は多くはないだろうが、単純な請求額だけ見れば圧倒的である。自分への見舞金だけでお茶を濁そうとする司令官に対し、きっちり住民への慰謝料も請求して責任をとらせようとするところがさすがだ。

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